「湘南色」車両がJR線から消滅 75年の歴史に幕
緑とオレンジでおなじみの「湘南色」を纏った最後の2編成が、ラストランを行いました。
これは、JR西日本と日本旅行が実施した「115系300番台湘南色 最後の営業運転乗車&湘南色・瀬戸内色・トリコロール色並び展示」というイベントの中で行われたもので、2025年2月1日から2日にかけて実施されました。
当日は、岡山に所属する115系のうち、最後の湘南色となっていたD-26、D-27編成を併結した6両編成を使用し、2月1日に徳山→下関で臨時運行。翌2月2日には、下関総合車両所 下関支所構内にて115系湘南色、瀬戸内色、新広島色の105系との並びで撮影会が実施されました。
最後の湘南色115系であるD-26、D-27編成は、これで引退が発表されており、1950年(昭和25年)の80系以来、75年間引き継がれてきた塗装が途絶えることとなります。
湘南色とは? 80系電車から続く国鉄標準色の一つ
今更説明するまでもありませんが、湘南色とは緑とオレンジのツートンカラーのことで、国鉄時代には直流電化区間の標準色の一つとして、また大量増備された113系や115系の塗装として、横須賀色と並んで関東以南の本州電化区間では当たり前のように見られた塗装でした。
国鉄の称号既定では、オレンジ色は「黄かん色」、緑色は「みどり2号」と呼称され、どちらも国鉄時代にはほかに本格的に使用された例は少ないですが、「みどり2号」は後に『トワイライトエクスプレス(初代)』のメインカラーとして使用されています。
初めて使用されたのは、1950年に登場した80系電車からで、この電車が「湘南電車」と称されたことから「湘南色」と言われるようになりました。
80系電車が登場する前は、国鉄の電車の運転はほぼ大都市圏に限られており、それも2~4両という短編成での運転が主流でした。加速性能や走行性能では機関車けん引の客車列車を上回ることはわかっていましたが、短編成を前提として基本的に全車制御電動車となっており、このため客車に比べてコストが高く、また短時間乗車を基本としていたために接客設備も簡素なもので、このため当時は「電車は性能はよいが、長距離大編成運転では客車に劣る」という認識が大半でした。
しかし、戦後の混乱期に輸送量が急増したことから、新たに発足したばかりの国鉄は輸送体系の抜本的な改善を行う必要があるとして、中距離輸送を電車に置き換えて成果を上げていた横須賀線の例を踏まえ、東海道本線東京口の客車列車置き換え用として製造されたのが80系電車でした。
80系は、「電車は短編成」という常識を覆し、基本10両+付属編成(当初は4両、のちに5両)の固定編成を組み、両端が制御車で電動車は中間車のみという構成となりました。制御車、付随車が登場したことにより、電車の問題だった製造コストは、編成トータルで大きく下がることとなり、さらに客車と同水準の車内設備を持ちながら、登場当初のダイヤでは東京ー熱海を客車特急列車と同等の90分で運行されました。

さらに、汚れを目立たなくするために茶色が原則だった車体色は、車体をこまめに洗車する余裕が生まれてきたことからこれを一新。宣伝効果の面と視認性向上の面から、アメリカの大陸横断鉄道を参考にオレンジと緑の車体を採用しました。80系は当初東京から静岡県内までの列車に充当されたことから、走行地域をとってこれを「湘南色」と呼ばれるようになります。なお、一部によれば「静岡県のミカンとお茶をイメージした」とされていますが、実際には大陸横断鉄道をベースとし、ミカン・お茶説は後付けである、というのが通説になっています。
かつては当たり前に見られたとそうだが… しなの鉄道に最後の1編成
80系で採用された「湘南色」は、その後国鉄の標準色のひとつとなり、その後153系や165系、さらに113系や115系で大量増備され、国鉄標準色の一つとして関東以西の太平洋側ではごく当たり前にみられる存在となりました。

国鉄末期にはステンレス車体の登場により、車体への塗装は省略されることが多くなりましたが、211系やJR化後に登場したE231系にも、帯色として湘南色が受け継がれています。
また、JR東海では塗装変更の在来車や一部の新型車両でも帯色として採用していた時期がありました。
JR西日本では、JR化後に京阪神に投入された車両はいわゆる「関西急電」色の帯をまとっている車両が多く、湘南色は新型車両には引き継がれませんでしたが、山陽本線などでは現在でも113系、115系が多用されていることもあり、比較的目にする機会も多くなっていました。

メンテナンスの向上や経費削減など一定の成果は上げたが、利用者やファンからの評判は芳しくなく、JRは「幸せの黄色い電車」などとPRしたもののまっ黄色=「末期色」などと揶揄され、大手メディアにも取り上げられる始末だった Wikipedia(国鉄113系電車)より @MaedaAkihiko
しかし、湘南色が多数残されていたJR西日本では2010年頃より車体色を地域ごとに単一色にすることを発表。中国地方では「瀬戸内地区地域統一色」と呼ばれる、黄色一色をまとった車両が続々と登場しました。これにより、湘南色は一気に減少することとなりましたが、冒頭のD-26、D-27編成は他編成の単一塗装化が進む中で、最後まで湘南色で活躍していました。
なお、今回の2編成の引退により、JR線からは湘南色の車両が消滅することとなりますが、しなの鉄道には湘南色の115系が1編成残されており、もうしばらくはこの見慣れた塗装を見ることができそうです。

