『夢空間』2両を完全復活へ 東京都清瀬市が公園整備で保存 CFも実施中
東京都清瀬市は2024年8月5日、2026年の全面オープンに向けて中央公園内に整備中の南部複合施設(仮)内に、埼玉県で保存されている24系『夢空間』2両を移設して展示すると発表しました。
移設されるのは、『夢空間』として製造された24系3両のうち2両で、2008年に廃車となった後は埼玉県三郷市にある商業施設「ららぽーと新三郷」で保管されており、このうちラウンジカーだった1両は内部公開、食堂車は内部非公開で展示されていました。
現状では、廃車から15年以上が経過し、屋外で展示されていたため外装は傷みが目立つようになっており、清瀬市では移設とともに完全な姿で復活させるため、3段階に分けてクラウドファンディングを実施する予定です。
まずは第一段階として、現在の保管位置から移動させるための移設費用として、2024年10月31日を締切としてクラウドファンディングが行われており、8月23日9時現在で目標額1,000万円のうち約144万円と、達成率は15%ほどになっています(仮に目標額に達しなくても、移設は実行されます)。
24系『夢空間』とは? JR東日本が製造した次世代の豪華寝台車両
『夢空間』は、JR東日本が1989年に製造した車両です。
時はバブル経済の全盛期、「豪華」であることが好まれた時代で、青函トンネルの開業と前後して『北斗星』や『トワイライトエクスプレス』が運行を開始し、好評を博していました。
このため、次世代の豪華列車のモデルケースとして製造されたのが『夢空間』と呼ばれた3両でした。
この前年に日本でも運行された『オリエント・エクスプレス』を参考に、豪華さに重点が置かれ、当時としては珍しく内装を鉄道会社ではなく百貨店に依頼したことでも話題となりました。
なお、製造されたのは3両のみで、専用の電源車などは用意されておらず、既存の14系または24系との併結が前提でした。このため形式は24系とされ、JR化後に製造された最初で最後の24系客車となっています。
製造されたのは下記の3両です。24系ながら『トワイライトエクスプレス』同様、ブルートレインらしからぬ塗装も話題となりました。
オシ24-901 「ダイニングカー」
編成の最前部または最後部に位置する車両で、『夢空間』ではここに食堂車があてられました。連結側が厨房スペースで、先端側の車端部は展望構造となっています。
座席定員は22名で、このうち4名が個室、残り18名は2名×3と4名×3の18席がオープンスペースとなり、『北斗星』のグラシャリオの定員30名と比べても、かなり余裕のある構造であることが分かります。「ダイニングカー」の内装は東急百貨店が担当、パリのビストロをイメージした内装となってます。
オハフ25-901 「ラウンジカー」
ロビーカーとして製造された車両で、内装は松屋百貨店が担当しました。
外装や内装は「オリエント・エクスプレス」を強く意識したもので、20世紀初頭にヨーロッパで好まれたアール・ヌーヴォー調のデザインとなっています。
車内レイアウトは、中央付近にバーカウンターと自動演奏機能付きのピアノが設置され、それらを挟んで1人掛けのソファーが向かい合って左右両側に配置されています。
オロネ25-901 「デラックススリーパー」
A個室寝台が備わった車両で、最上級個室「エクセレントスイート」1室と「スーペリアツイン」2室が配置されており、定員は各部屋2名の合計6名というものでした。
2006年当時の寝台料金は、1室当たりで「エクセレントスイート」が67,280円で、『トワイライトエクスプレス』の「スイート」や『カシオペア』の「カシオペアスイート」50,980円(2006年当時)と比べてもワンランク上の料金設定となっていました。なお、「スーペリアツイン」の寝台料金は上記2室と同じ50,980円に設定されていました。
内装は高島屋が担当し、「エクセレントスイート」では、室内が応接、寝室に分かれ、ベッドはセミダブルサイズ2台のゆったりとした配置でしたが、『トワイライトエクスプレス』や『カシオペア』のような展望構造にはなっていませんでした。各部屋にはビジネスホテル仕様のユニットバスが設置され、バスタブ、シャワー、トイレ、洗面が設置されていました。
また、『夢空間』は足回りや電気配線は24系として設計されているため、既存の24系との連結に問題はありませんが、14系との連結の際は、電源回路に違いがあることから、変換装置を搭載したこのオロネ25-901が必ず必要となっていました。
24系『夢空間』 現役時代の運用
こうして製造された『夢空間』ですが、最初の運用はJR東日本の「展示物」としての使用で、1989年に開催された横浜博覧会の一環として、桜木町駅で展示されていました。
博覧会終了後は、一般向け列車の運行が始まりましたが、前述のとおり単独運用はできず、また製造番号が示す通り試作的な要素が強かったため、この3両以外に増備されることはありませんでした。
このため、運用は主に『北斗星』系統の臨時列車として、上野ー札幌などで運行されました。年度によっては、首都圏側の発着駅が上野駅以外であることもあり、また道東まで足を延ばす場合や、団体臨時列車として使用されることもありました。
しかし、バブル崩壊後の志向の変化や、新幹線の延伸による在来線の経営分離、『夢空間』の発展型ともいえる『カシオペア』の運行開始、さらに夜行列車自体の衰退により、次第に運行の機会が減少、2003年夏の運行をもって『北斗星』多客臨としての運行を終了しました。
その後は時折団体臨時列車などで使用され、東日本のみならず西日本でも走行する姿が見られましたが、2008年に運用を離脱、ラウンジカーとダイニングカーは2008年6月に、デラックススリーパーは2011年12月に廃車となりました。
廃車となった『夢空間』3両 その後と今後の予定
3両とも廃車となった『夢空間』ですが、全車両とも解体は免れ、2か所に分かれて保存されることとなりました。
今回クラウドファンディングの対象となり、移設と修復が予定されているラウンジカーとダイニングカーは、埼玉県三郷市の商業施設「ららぽーと新三郷」に引き取られ、2024年現在は屋外展示となっています。ラウンジカーは休憩スペースとして日中は解放されていますが、ダイニングカーは通常は非公開となっています。
廃車からすでに15年以上が経過し、さらに屋外展示のため塗装はかなり傷みが目立つ状態となっているようです。
東京都清瀬市よれば、今回の車両の移設について、「新たな公園整備の中で、公園内に新たなにぎわいを創出するため多くの人に訪れていただけるための良い仕掛けがないか検討したところ、保存鉄道車両が最適であるとの結論に達した」としています。この計画を進める中で、ららぽーと新三郷を運営する三井不動産との間で車両譲渡で合意したため、『夢空間』の移設が実現しました。
清瀬市によると、移設する2両はできるだけ現役当時の姿に近づけて保存するということですが、他に製造された車両もないことから、破損したり失われた部品は新たに作り直すなどを予定しています。展示の際は、24系と同じ440Vの三相交流発電機を設置し、これをジャンパ栓経由で車両に供給することで、もともと車両に搭載されている空調や設備を稼働させるということです。
展示に際しても、車両の劣化を防ぐため屋根を設置するほか、防腐コーティングなども予定しているということです。
さらに、食堂車の構造を活かし、飲食店として活用できないかも検討しているということで、今後の計画に期待が高まります。
なお、『夢空間』の展示を含めた公園のオープンは2026年度の予定ということです。
また、『夢空間』3両のうち、残る1両は、東京都内のレストランに引き取られ、2024年8月現在も稼働しており、こちらは移設の話はないということです。