とさでん交通が廃止? 現状維持? 高知市地域公共交通あり方検討会の結論はどうなる

社会
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とさでん交通 路面電車が廃止危機 コロナ禍の乗客減少で

高知県を走る路面電車、とさでん交通が廃止の危機に瀕しています。

ただでさえ長期的に見れば減少傾向にあった旅客数が、コロナ禍で一気に加速。2019年度までは年間600万人程度あった利用客数は、2020年には429万人まで減少し、経営難に拍車をかけることとなりました。2021年度は454万人と少し持ち直したものの、依然として厳しい状態が続いています。

収支を見ても、2018年度まではかろうじて黒字を維持していましたが、2019年度からは補助金を含めても赤字に転落。特に、コロナウィルスの影響で収益の柱であった県外との高速バス事業が不振に陥っていることから、2020年度はバス事業などを含めた会社全体で8億4000万円、2021年度は4000万円の赤字決算となり、路面電車事業に限って言えば2021年度は2億1000万円、バス事業は11億円の赤字となっています。また、借入金も38億円に達しています。

こうした事態を受け、とさでん交通に出資する高知市は、2022年12月から「地域公共交通あり方検討会」を設置。路面電車だけでなく路線バスなどを含めた高知市の公共交通の将来について議論を進めてきました。

2023年6月には、検討会が意見を集約し市長に提言、これを受けて高知市が沿線の南国市やいの町との協議に入る予定で、とさでん交通は縮小の危機を迎えています。

とさでん交通株式会社とは? 高知県の公共交通を再編して誕生

とさでん交通は、2014年にそれまでの土佐電気鉄道、土佐電ドリーム交通、高知県交通が統合されて誕生しました。

高知県では、モータリゼーションの進展や人口そのものの現象により、公共交通機関の利用は年を追うごとに減少、事業者は厳しい経営を行っていました。1999年から2013年までの15年間で、土佐電気鉄道、高知県交通の両社合わせた累積赤字は90億円に達し、行政からの補助金も焼け石に水状態で、このままでは近い将来公共交通が破綻することが予想されました。

高知駅前に乗り入れるとさでん交通 2008年の高知駅高架化にあわせ、2009年に現在位置へと移動した Wikipedia(高知駅)より @MaedaAkihiko

両社の統合は1990年代にも画策されたことはありましたが、資金面で折り合いがつかず頓挫。しかし2013年になって、高知の政財界が暴力団とつながっていたことが発覚し、これをきっかけに人員の刷新が行われたことから再び合併の機運が高まり、高知県が50%、残りの50%を沿線自治体が出資することで新たにとさでん交通株式会社が設立されました。民間企業からの出資はなく、自治体のみが出資していることが特徴で、その意味ではほぼ公営公社と見ることもできます。

収支以上に問題 追いつかない設備投資 先送りのツケが顕在化

とさでん交通の軌道事業経営では、赤字であることに加え、経費削減のため設備投資を先送りすることで最低限に抑えてきたことが問題となっています。高知市の試算では軌道事業全体を維持するためには年間8億円程度の投資が必要とされていますが、とさでん交通が発足した2014年度から2021年度までに行われた設備投資は12億4000万円で、必要とされる投資額の2割程度しかありませんでした。

さらに2022年度から2026年度までの中期経営計画によれば、設備投資額として11億5000万円が予定されていますが、これも必要とされる額の3割に満たない数字です。レールの交換には年間4億円が必要ですが、実際には3000万円、電線の交換には年間1億5000万円が必要ですが、実際には7200万円しか投資されていません。

保有する車両63両のうち、7割以上が車齢60年を超えており、近い将来大量に置き換えが必要ですが、現在は2~3年に1編成の更新がやっとの状況にとどまっています。

とさでん交通3000形
2023年現在、とさでん交通としては最新型となる3000形 2018年に第一編成が投入されたが、今のところ2021年に投入された第二編成の2編成しかなく、一つ前の100形1編成と合わせてもバリアフリー車両は3編成しかない 2000年以降に製造されたのも6編成に留まり、全体的に車齢が高くなっている 2023年度に第三編成が投入される予定 Wikipedia(とさでん交通3000形電車)より @MaedaAkihiko

もともと設備投資を抑えて何とか黒字を計上していたことに加え、コロナ禍で利用客が大幅に減少した現在の経営状態では、補助金を入れても日々のランニングコストすら賄えず、設備投資にまではとても手が回っていません。急激に業績が悪化としたというよりは、先送りしていた問題がコロナ禍で一気に顕在化した、というのが現状です。

こうした状況を受け、先にも述べたように「地域公共交通あり方検討会」は2023年6月に提言をまとめる予定ですが、とさでん交通にとっては非常に厳しい内容となる可能性があります。

どうなる? とさでん交通の路面電車 バス転換のシミュレーションも

厳しい状況にあるとさでん交通の軌道事業ですが、では今後どうなる可能性があるのでしょうか。

考えられるシナリオとしては、路面電車のバス転換が挙げられます。

実際協議会では、バス転換した場合のシミュレーショも行われました。その結果、路面電車全路線をバスに転換した場合、バス事業全体が黒字となる試算が発表されています。

しかし、この試算は単に路面電車の乗客をバスで輸送した場合のコストのみを考えてされたもので、全国的に問題となっているバス運転士の確保などには触れられていません。また、バス転換による利便性低下に伴う乗客の減少や、観光客の減少による地域の衰退なども考慮されておらず、全線の廃止は現実的ではなさそうです。

変わって噂されているのが、市街地のみの路線を残し、末端を部分廃止する案です。

とさでん交通の路面電車事業は、高知市を中心にその東側の南国市、西側のいの町に総延長25.3㎞に及びます。路線としては、高知市内を南北に走る桟橋線と、高知市の市街地からいのまでを結ぶ伊野線、御免までを結ぶ御免線の3路線からなり、これらはすべて市内中心部のはりまや橋交差点で交差し、国内の路面電車としては唯一となる、路面電車同士の交差点平面交差を見ることができます。

このうち、高知市内中心部となる桟橋線と鏡川~文殊通の区間では、日中でも毎時8~10本が運行され、大都市に負けない運行頻度で、この区間ははりまや橋での乗り換えも含め運賃が200円均一に設定されており、相当の利便性が確保されています。

はりまや橋交差点平面交差
高知市内中心部は、日中でも6~8分程度に1本という高頻度運行が行われており、頻繁に電車が行き交う 都市交通としては頼もしい光景 撮影:鉄道模型モール制作室

しかし、この区間は12㎞と総延長の半分程度に過ぎず、東側の御免線末端区間は20分程度、西側の伊野線の末端区間は40分程度の運転間隔となっており、都市交通としてはいささか不便であるといわざるを得ません。協議会では、市内中心部の運賃均一範囲のみを軌道として存続させ、末端区間は廃止せざるを得ないのではないか、との意見も出されています。

とさでんおおさわぎ そのに
伊野線の朝倉付近は、道幅が狭いうえ変則通行で、路線バスも行きかうカオスな状態 単線のため、信号所ではタブレット交換も行われる あまりに本数が減っては、安全面からも軌道撤去の話が出ても当然ともいえる 通学生でにぎわっている様子が伺えるが、廃止や減便で彼らが「不便だ」と感じれば、将来公共交通機関を使う人はさらに減ってしまい、若者の流出は地域の過疎化にもつながる

これに加え、現実問題として現在とさでん交通が行える投資額で維持できる路線はせいぜい10㎞程度とみられており、これが協議会で出された存続範囲と一致することから、軌道線の一部廃止に説得力を持たせています。

2023年6月 とさでん交通の今後について協議会が提言まとめる予定 

先に述べた通り、2023年6月には協議会から高知市に今後のとさでん交通の在り方についての提言がまとめられる予定になっています。

とさでん交通が自力で今後も運営を続けていくのは困難で、結局のところ軌道事業の一部または全部をバス転換するのか、あるいは補助金を増額して現状を維持するのかの2択になるものと思われすが、路面電車を現在の規模で維持するためには、必要な補助金は4倍になるとされています。沿線自治体の財政も厳しく、納税者の支持が得られるかは不透明です。

ただし、単に路面電車をバス転換すれば解決する問題でもありません。経営が厳しいのはバス事業も同じで、転換しても今後先細っていくとは容易に想像できます。利便性の低下で利用減少や人口減少に拍車がかかかり、地域の交通全体が崩壊してしまうことも予想されており、収支だけで判断することは避けてほしいものです。

こうした見解に最大出資者である高知県は、今のところ静観する構えです。

一方、2021年に大幅な減便となったいの町は「減便が利用しにくい状況を作っている」として、ダイヤを元に戻したうえで存続を求めています。

今回の提言は高知市が行うもので、その内容を単独で実行することはできず、仮に縮小の結果が出たとしても直ちに実行されるわけではありません。同じように出資する高知県やいの町、南国市、そしてバス沿線として出資するとも調整を行う必要があり、今後の展開に注目です。

 

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