存続問題に揺れる神戸電鉄粟生線でダイヤ改正 都市近郊なのに廃線の危機に瀕する不思議な路線

社会

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2020年3月ダイヤ改正 久々の増便で需要喚起へ

兵庫県内を走る神戸電鉄で、3月14日にダイヤ改正が行われることが発表されました。粟生線では、利用不振に伴ってこの15年以上減便が続いてきましたが、沿線自治体の協力を得て昼間時の一部増発を行うこととなりました。一方、粟生駅で加古川線に接続しない列車を始め、ラッシュの前後など、運転間隔の短い一部の時間帯は減便となります。

神戸電鉄、と言っても、兵庫県在住の人でもその沿線に住んでいる人以外には非常になじみが薄いかもしれません。兵庫県の県庁所在都市、神戸市中心部の新開地駅を起点に、有馬線、三田線、粟生線、公園都市線の4路線を運営し、沿線には北神戸ニュータウン、北摂三田ニュータウンの他、藤原台や鹿の子台、自由が丘、緑が丘といった住宅地が広がり、また日本三名湯の一つ有馬温泉へのアクセスも担っています。営業距離は約70㎞、保有車両も約150両を数えます。

また、海岸線のすぐ近くまで山が迫っているという神戸の特徴に合わせ、都市近郊路線であると同時に、標高0mの湊川駅を出ると2駅目の長田駅(2.3㎞)が標高70m、5駅目の鈴蘭台駅(7.9㎞)が標高278mと、最大50‰にもなる急こう配が連続する本格的な山岳路線でもあります。これらの急こう配の存在に加え、全線において新開地駅へ向けてほぼ一方的な下り坂であることから、全車両ともブレーキ系統に特殊な装備が搭載されていて、趣味的にも非常に興味深い路線です。

急こう配やトンネルも連続する神戸電鉄

沿線人口はある でも利用不振で存続問題へ

さて、そんな神戸電鉄の保有する4路線のうち、粟生線が廃線の危機に瀕しています。

廃線というと、近年は北海道の話題が多く、それ以外でも人口希薄地帯のローカル線が話題になることがほとんどです。一方、神戸市の中心に近い新開地駅からの直通電車が運行され、沿線には住宅地が広く存在している粟生線。沿線の三木市、小野市はそれぞれ75,000人、47,000人の人口を抱えています。終点の粟生駅ではJR加古川線、北条鉄道とも接続し、盲腸線でもない粟生線が、なぜ廃線の危機にあるのでしょうか。

粟生線は、神戸市北区の鈴蘭台駅から途中三木市を経由し、小野市の粟生駅までを結ぶ29.2㎞の路線です。鈴蘭台駅では有馬線、三田線と接続し、実質的には神戸市兵庫区の新開地駅から粟生駅まで、一体的な運行がなされています。

特に三木市内では沿線に大規模なニュータウンの開発が進み、実際1990年代までは利用客の増加が続いてました。利用客の見込める鈴蘭台-志染(しじみ)を中心に複線化工事や、複線化用地の確保も一部で行われ、輸送力増強が進められてきました。1992年度には年間1420万人の利用がありましたが、この頃が粟生線の全盛期でした。老朽化によりニュータウンの人口は減少に転じ、さらに高齢化も顕著になります。それ以外の地区でも総じて人口の減少、高齢化が進みました。もともと自動車への依存率は高い地域である上、道路整備で神戸市内と沿線各地のアクセスも向上しました。

さらに追い打ちをかけるように、2001年には兵庫県最大手の神姫バスが、粟生線に並走する形で短距離の高速バスを新設。ニュータウン内や自宅近くにきめ細かく設置されたバス停は利用者に好評で、さらに神戸市の中心三ノ宮へ乗り換えなしで移動できるため、多くの利用客が粟生線から神姫バスへと移りました。当初上下30便で始まったバス路線は、2017年改正では102便(いずれも平日)が設定され、朝のピーク時には5~10分毎の高頻度で運行されるまでになりました。

沿線へ危機感伝わらず 利用不振→減便→利用不振のスパイラル

50‰のこう配を下る粟生線電車
Wikipediaより

こうした環境の変化もあり、1996年頃から粟生線の利用客は減少を始めます。路線バスの運行に対抗し、2003年頃までは増発など利便性の向上が行われてきましたが、利用客数の減少に歯止めをかけることはできませんでした。2007年度の利用客は743万人と、ピーク時の半分程度まで落ち込み、この年だけで赤字額は12億円、累積赤字は100億円を超えるまでになりました。輸送力増強の計画は当然白紙となり、それどころか路線の維持さえ危ぶまれるようになりました。

無論、神戸電鉄側でも経費削減などの努力は行われており、ワンマン化、駅の無人化が進められてきました。 しかし、山岳路線という特殊な路線環境を抱え、車両や運行にかかるコストも一般路線と比べて割高で、単線区間や急カーブ、急こう配の存在で速度アップもむつかしく、競合機関に対して有効な対抗策をとることができませんでした。 2004年からは、国、兵庫県、三木市、小野市による補助金の投入も始まりましたが、経営状況の改善は見いだせないまま、2009年でこの補助金は打ち切られました。

2009年以降、神戸電鉄では粟生線の利用推進と路線維持へ向けた広報を本格的に開始、沿線自治体(神戸市・三木市・小野市)を交えた話し合いの場も設置されましたが、神戸電鉄と沿線自治体の間で認識の差は埋まらず、存続への具体的な進展は見られないまま、赤字だけが増えていきました。

2011年、神戸電鉄は、年間10億円を超える赤字はもはや民間企業としては負担できない金額で、鉄道として存続させる場合は、沿線自治体が鉄道施設を購入、維持し、神戸電鉄は運行に専念する上下分離式を沿線自治体に提案します。同時に廃線してバス化した場合のシミュレーションも発表、現在の輸送力を維持する場合は初期投資に最低10億円、その後の維持に年間5~6億円の負担が沿線自治体には必要で、それならば今ある路線を活用できる方法を探ろうというものでした。しかし、沿線3市はこれを拒否、再び話し合いは行き詰まります。同年、神戸電鉄はダイヤ改正を実施、朝ラッシュを除き全線で15分間隔であった運行を、末端部の志染―粟生を日中60分間隔にするなど大幅な減便を実施しました。これらの報道や実際の減便で、ようやく市民レベルにも粟生線が危機的状況であることが伝わり始めます。

2012年2月、こうした状況を受け兵庫県が仲裁に乗り出し、兵庫県、沿線3市が40億円の無利子貸付を行い、当面の資金を確保しつつ神戸電鉄は経営努力を行い、2016年までの全線黒字化を目指すことで合意、ひとまず2016年度までの存続は決定します。しかし、肝心の利用客は減少が続き、2012年度は662万人まで減少しました。また、2013年には赤字額が再び10億円台に達し、早くも再建計画は破綻することになります。こうした中、神戸電鉄は2014年、2016年に減便を伴うダイヤ改正を実施。減便時間帯の拡大、粟生駅で加古川線に接続しない列車の削減が行われました。利用客数はさらに低迷し、2015年度の利用客は646万人にとどまり、再建に必要な最低条件とされた年間700万人には遠く及びませんでした。

また、小野市が上下分離分離方式について一定の理解を示す意見を発表したものの、三木市はこれに反対、沿線市町村の足並みの乱れも露呈しました。任意で結成された粟生線活性化協議会の場も、意見の違いや議論の進め方をめぐり委員が辞任するなど混乱が続き、具体的な方針は出されませんでした。

このように路線が存続の危機にありながら、沿線自治体や利用者に危機感が伝わらないことは多くありますが、粟生線の場合は都市近郊路線で、それなりのボリュームをもって運行されていることが、経営の状態を分かりにくさせていると思われます。また、赤字の粟生線をかかえながら神戸電鉄自体は黒字を計上しているという構造も、危機感の薄さに拍車をかけている状況といえます。1日数本のローカル線ならともかく、自治体にしても利用者にしても、あるいは沿線住民にしても「まさかこの路線が廃止になるはずがない」との思い込みも激しいもでしょう。

利用しやすい環境づくり・街づくりへ 2021年度まではひとまず存続

Wikipediaより

行政の空回りが続く中、2016年1月には法律に基づき、活性化協議会が法定協議会へと移行します。そして2017年以降は車両や設備の改修、利用促進の補助は行う一方、直接的な収支補助は行わないこととなりました。 2017年には神戸電鉄はさらに減便を伴うダイヤ改正を行い、 比較的利用の多かった西鈴蘭台-志染でも日中15分間隔から30分間隔へ変更、10年前と比べ列車本数は大幅に減少しました。

こうした中、活性化協議会が沿線住民に行った意見調査では、相次ぐ減便がさらに粟生線を利用しにくい環境を作っていること、粟生線だけの改善では利用増に結び付きにくいという意見も出されました。そこで再び関係自治体を交え、2017年度以降はバスとの乗り継ぎ改善や駐車場の整備など住民から出された意見を踏まえた上で、街づくり計画と一体化して粟生線を利用しやすい環境づくりを進めることとなりました。その計画の一旦として、2020年3月改正では三木市が費用を負担する代わりに志染-三木を中心に昼間の増発を行い、日中60分間隔であったところを30分間隔に増発することとなりました。

これまで利用不振→減便→利用不振…という廃線へのスパイラルをたどってきたわけですが、何とかそこから抜け出そうとようやく一石を投じることになりました。もちろん、その結果利用改善につながるかどうかはわかりません。協議が長引くにつれ、沿線住民の意識もまた薄れつつあります。どうにか向こう数年の運行を維持するためその場の対策が取られてきましたが、将来においても継続的に鉄道を運行するための投資や設備改修までには、全く手が回っていないのが現状です。

いったん経営が悪化した交通機関を立て直し、維持していくためには公的な補助は欠かせません。もちろん、収支がいいに越したことはなく、何でもかんでも税金で維持すべきだとは思いませんが、粟生線は1日のべ2万人近くが利用する、大切な地域の足です。交通機関は儲かる、儲からないではなく、「利用者がいるから残す」「利用する、しないにかかわらず社会全体で支える」という意識が広がることを祈っています。

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