北海道の長距離列車網 現在の運転体系を作った1980年改正
JTBパブリッシング発行の「時刻表完全復刻版1988年3月号」から、当時の列車ダイヤを振り返る話題は、前回の青函トンネルから北海道内へと北上、1988年3月改正の北海道内の長距離列車についてです。今回は、特急『北斗』急行『すずらん』など道南を取り上げます。
1970年代半ばまで、本州から北海道へのアクセスは青函連絡船を利用することが一般的でした。北海道内の長距離列車は、旅客は青函連絡船を利用して北海道へ入ることを前提とし、函館を中心とした運行形態をとっており、函館と道内各地を結ぶ優等列車が多数設定されていました。例えば首都圏から道内へ向かう場合、旅客は
- 首都圏を早朝に出発し青森に夕方到着、夜の青函連絡船で函館へ向かい、函館からは夜行列車で道内各地へ
- 首都圏を午前中に出発し青森に夜遅くに到着、青函連絡船の深夜便で函館へ向かい、函館からは早朝~午前初の列車で道内各地へ
- 首都圏を夜に出発し、夜行列車で青森へ到着、午前中の青函連絡船で函館へ向かい、昼前後~午後発の列車で道内各地へ
というものが主な旅程でしたが、いずれも丸1日かそれ以上かかる長い旅路でした。それでも国鉄以外に庶民が利用できる交通手段が少なかったことから、東北本線や青函連絡船、函館本線などは多くの長距離利用客でいつも賑わっており、最盛期の1973年(昭和48年)には年間498万人が青函連絡船を利用しました。
しかしその後、航空機の大型化やそれに伴う航空運賃の値下がり、国鉄の経営悪化などの影響で、国鉄を利用して北海道へ行き来する人は激減、1980年(昭和55年)には首都圏と北海道の航空:鉄道のシェアは95:5という有様でした。
1980年(昭和55年)10月、国鉄で全国規模のダイヤ改正が行われ、北海道に関しては画期的ともいえる変革が行われました。
一つ目は、千歳線の電化と千歳空港駅(現在の南千歳駅)の開業です。もともと信号場として計画されていたものを駅として昇格させたもので、ターミナルビルとは少し離れた位置ではありましたが、国鉄としては初めての空港駅となり、航空機との連携を強く意識したものとなりました。
二つ目は道内長距離列車体系の変更です。従来の北海道内の長距離列車は、「旅客は青函連絡船で北海道へやって来る」という前提のもと、連絡船と接続する函館を中心とした運行体系をとっていました。しかし、現実には多くの旅客が航空機へシフトしたことから、「航空機で道内へ来た旅客を道内各地へ運ぶ」方針へと転換、函館中心から札幌中心での運行体系へと大きく変更されました。当時の国鉄としては画期的な変革で、現在の長距離列車の運行体系が作られたのはこの改正でした。
1988年3月号時刻表 道南編 『北斗』『すずらん』
1988年3月改正は、この時点から運行体系としては大きな変更はありませんが、現在からみると興味深い点がいくつかあります。まず第一回目は、道南の函館本線・千歳線です。
函館 | 長万部 | 東室蘭 | 札幌 | |
---|---|---|---|---|
はまなす | 1:31 | → | 4:26 | 6:18 |
北斗星1号 | 4:32 | 6:09 | 7:11 | 8:53 |
◆北斗81号 | 4:45 | 6:10 | 7:11 | 8:53 |
◆北斗星3号 | 5:44 | 7:23 | 8:27 | 10:06 |
北斗星5号 | 6:44 | 8:17 | 9:18 | 10:57 |
◆北斗85号 | 6:44 | 8:17 | 9:18 | 10:57 |
北斗1号 | 7:34 | → | 9:43 | 11:03 |
北斗3号 | 8:20 | 9:45 | 10:39 | 12:05 |
◆北斗81号 | 8:25 | 10:07 | 11:08 | 12:53 |
北斗5号 | 9:58 | 11:18 | 12:14 | 13:43 |
◆北斗83号 | 11:16 | 12:45 | 13:46 | 15:20 |
北斗7号 | 12:20 | 13:41 | 14:34 | 15:56 |
北斗9号 | 13:30 | 14:54 | 15:50 | 17:15 |
北斗11号 | 15:00 | 16:24 | 17:21 | 18:44 |
◆北斗85号 | 15:04 | 16:38 | 17:37 | 19:21 |
北斗13号 | 17:00 | 18:23 | 19:16 | 20:38 |
◆北斗87号 | 18:09 | 19:55 | 21:08 | 22:43 |
北斗15号 | 18:57 | 20:21 | 21:17 | 22:45 |
◆すずらん89号 | 23:16 | 3:07 | 4:42 | 6:30 |
札幌 | 東室蘭 | 長万部 | 函館 | |
---|---|---|---|---|
◆北斗80号 | 5:49 | 7:29 | 8:39 | 10:26 |
◆北斗82号 | 7:00 | 8:39 | 9:45 | 11:24 |
北斗2号 | 8:01 | 9:23 | 10:19 | 11:45 |
北斗4号 | 8:54 | 10:22 | 11:18 | 12:43 |
北斗6号 | 10:07 | 11:31 | 12:25 | 13:50 |
北斗8号 | 11:37 | 13:02 | 13:57 | 15:21 |
北斗10号 | 12:49 | 14:16 | 15:13 | 16:40 |
◆北斗84号 | 13:10 | 14:51 | 15:54 | 17:33 |
北斗12号 | 14:58 | 16:25 | 17:23 | 18:46 |
◆北斗86号 | 15:48 | 17:28 | 18:34 | 20:14 |
北斗14号 | 17:00 | 18:22 | → | 20:34 |
北斗星2号 | 17:18 | 18:59 | 20:03 | 21:40 |
◆北斗星4号 | 18:10 | 19:53 | 20:56 | 22:32 |
北斗16号 | 19:04 | 20:32 | 21:31 | 22:59 |
北斗星6号 | 19:19 | 20:59 | 22:01 | 23:34 |
はまなす | 22:00 | 23:52 | → | 2:39 |
◆すずらん90号 | 23:15 | 2:19 | 4:20 | 6:17 |
◆:臨時列車 斜体:急行
1988年3月改正では、最後まで函館を起点として網走までを結んでいた特急『おおとり』が廃止され、札幌を境界に『北斗』と『オホーツク』に系統分割されました。このため、この改正で道南―道北・道東を札幌を挟んで直通する列車はなくなりました。
新ダイヤは3月13日から実施され、函館発の早朝需要は新たに運転を開始した『北斗星』が寝台の一部を座席として開放することで対応することとなりました。しかし運行初日の『北斗星』が函館に到着、出発するのは翌3月14日となる一方、青函連絡船の最終運行は3月13日で、改正初日に青函連絡船深夜便を受けて発車する函館発の列車が必要だったことから、『北斗星』に代わって運転されたのが『北斗』81号・85号で、この2列車は3月13日1日だけの運転でした。『北斗星』の運転開始後も、連絡船深夜便からの接続を受ける列車が存在していた頃の名残か、早朝需要は思いの他多く、その後しばらくは急遽臨時『北斗』が運転されることや、『北斗星』に座席車が増結されることがありました。
また、先日の記事で述べた『はまなす』の他に、臨時列車として急行『すずらん』が設定されていました。『すずらん』はもともと函館―札幌を結んでいた定期急行列車でしたが、定期列車は1980年(昭和55年)改正までに『北斗』に格上げ、吸収される形で廃止、1985年(昭和60年)では臨時列車もいったん消滅しました。しかし、1986年(昭和61年)改正では臨時夜行急行の名称として復活、1988年3月号でもゴールデンウィークの臨時列車として記載されています。なお、1988年夏からは快速『ミッドナイト』となるため、『すずらん』の名称として運転されたのはこのシーズンが最後となりました。
北海道の特急列車 1988年当時はキハ183の独壇場
北海道の特急列車には、長年にわたりキハ82が使用されてきましたが、過酷な自然環境の中で老朽化による故障が頻発するようになり、1981年(昭和56年)から量産されたキハ183に順次置き換えが進みました。キハ183は北海道専用の特急型気動車で、厳しい寒さや特有の粉雪に対する対策を特に施した「寒さと雪に強い」車両でした。キハ183の増備に伴い、キハ82は分割民営化前の1986年(昭和61年)11月改正で定期運用から離脱、1988年3月改正の時点では、北海道内の定期特急列車はキハ183の独壇場となっていました。
1986年には、国鉄分割民営化を控え、後のJR北海道の経営の厳しさが予想されることから国鉄の予算で新型車両を投入しておこうということになり、キハ183の増備が行われましたが、製造コストの削減を行いつつ、出力の向上で最高速度は110㎞/hにアップ(準備工事として120㎞/h対応)、1986年製造のグループは500/1500番台またはN183系と区分されることとなりました。接客設備の向上も行われ、ハイデッカー形式のグリーン車キロ182-500番台も連結されるようになりました。
1988年3月改正では、さらに機関出力を向上させた550/1550番台(通称NN183系)も登場、N183系についても120㎞/h対応工事を行い、この改正より最高速度120㎞/hでの運転を開始、函館―札幌の所要時間は最短3時間29分となっていました。
その一方で、苗穂運転所にはオリジナルのキハ82の4連×2が残置しており、臨時の『北斗』にはキハ82が運用されていました。北海道からジョイフルトレイン以外のキハ82が完全に引退したのは、1992年9月でした。
1988年3月改正 特急『北斗』編成表
北斗1・7・11・13号/2・6・8・14号
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
自 | 自 | 自or指 | 指 | (1/4)G | 指 | 指 |
北斗3・5・9・15号/4・10・12・16号
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
自 | 自 | 自or指 | 指 | (1/3)G | 指 | 指 |
←札幌 G:グリーン車 指:指定席 自:自由席 :禁煙車
最速の1号を含む上段の編成が、ハイデッカーグリーン車を含むN183またはNN183系と思われますが、編成表からは判別することができません。
また、臨時列車の急行『すずらん』は、編成表が記載されていませんでした。『北斗星』『はまなす』の編成は、前回青函トンネル開業時の時刻表をご覧ください。
以上、1988年3月時刻表より、北海道長距離列車道南編でした。