高速鉄道の営業距離 世界一位は中国が圧倒 日本はベスト5にランクイン
国際鉄道連合の解釈によると、高速鉄道とは専用線を最高速度250㎞/h以上、または改良された在来線を最高速度200㎞/h以上で運行される鉄道のことを指しています。
この基準に当てはめると、2022年9月1日現在の同連合のデータによれば高速鉄道は世界20国に存在し、その総延長距離はおよそ60,000㎞で、このうち世界一位となる中国が約40,000㎞と世界の7割近くを占めています。ちなみに2位はスペインの約3,700㎞、日本は第3位の約3,000㎞となっています。また、世界ではさらに約20,000㎞が建設中で、それに加えて約20,000㎞が建設計画が了承され、33,000㎞余りが計画されているとされています。
HIGH SPEED LINES IN THE WORLD 2021
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ただしこの一覧では、先ほどの高速鉄道の定義を満たしていない日本の山形新幹線や秋田新幹線が高速鉄道としてリストされている他、ヨーロッパ各国の在来線改良区間が含まれていないなど、表としての完成度はやや疑問が残ります(こうした区間を含めた場合、日本はフランス、ドイツに次ぎ5位となります)。
これらの高速鉄道のうち、自国の技術を確立しているのは日本を始めフランス、ドイツ、イタリアの4か国で、その他の国は多かれ少なかれ海外の技術を導入して運行され、中でもフランスは高速鉄道を重要産業と位置付けて積極的に諸外国に売り込みを進めた結果、フランスTGVの技術はヨーロッパのみならず北米やアジア、アフリカなど多くの国で導入されています。
このように21世紀の今日には、世界の多くの国で高速鉄道が運行されていますが、国土の広さや地理条件、気象条件、国民性などは様々で、一概に比べることはなかなか難しくなっています。
そこで、世界の中で日本の新幹線が優位に立つ点を考えてみました。
営業最高速度は中国 日本、フランス、ドイツが追従
現在、鉄輪式の高速鉄道で世界で最も最高速度の速いのは中国で、最高速度は350㎞/hとなっています。これに次いで2位となるのが日本、フランス、ドイツの320㎞/h、5位がスペインの310㎞/hと続きます。
広大な国土に大都市が点在する中国では、人口50万人を超える都市を全て高速鉄道で結ぶ計画があり、2035年には高速鉄道の総延長が70,000㎞になる計画があります。点在する都市をネットワークで結ぶのは高速鉄道のメリットが最も発揮されるケースでもあり、また国際的な威信もかけて速度向上にも非常に熱心となっています。
中国では、1990年代から経済発展に合わせ旧態依然だった鉄道システムや施設の近代化に着手、2004年に最高速度200㎞/hの運転を開始すると、世界各国の技術を導入(パクリとも言いますが…)し、2010年10月に世界最速となる350㎞/hでの運行を開始しました。しかし翌年には高速鉄道上での追突事故が発生、さすがの中国も安全対策のため最高速度を300㎞/hに落とさざるを得ませんでしが、2017年には新型車両の就役に伴い再び350㎞/hでの運行を再開、現在のところ世界最高となっています。
日本の新幹線 世界に誇れるポイントは… 何といっても定時運行率
日本の新幹線は、その技術は優秀なものの国家的な視野の欠落やお役所仕事の弊害により、高速鉄道が再評価された1990年代以降になっても基本的には鉄道会社に丸投げで、建設も極めてスローペースとなっていました。このため、世界各国で高速鉄道が続々と延伸される中で営業キロでは次第に優位に立てなくなり、2009年に中国に抜かれて以来その差は開く一方でした。
ただし、最高速度や営業キロでは抜かれても、日本の新幹線が世界に誇れるのは何といっても定時運行率でしょう。
東海道新幹線では、1日当たりの列車本数は約380本。東京駅を基準にするなら、最大で1時間当たり17本が出発するという、世界の高速鉄道としては類を見ない高密度運転となっています。
これだけの列車を運行しながら、東海道新幹線1列車当たりの平均遅れ時間はわずか12秒(年間の遅れ時間を累計し、年間運転本数で割ったもの)。これは台風や地震など自然災害により大きくダイヤが乱れた時を含んでおり、通常時にはほぼ寸分の狂いなく運行されていることを示しています。
世界を見てみると、確かに韓国のKTXが定時運行率99%、スペインのAVEで95%なんて数字も出てくるのですが、そもそも「定時運行」の基準が世界で統一されておらず、ヨーロッパでは「30分遅れて初めて遅延」なんて認識もあるくらいです。また、国によっては自然災害や鉄道会社に責任のない事故は「不可抗力」として遅れにはカウントしない、なんて場合もあり、こうした基準の差だけでも日本の優秀さが伺えます。
「起動加速度」とは? 日本の新幹線が世界でも群を抜く
もう一つ、日本の新幹線が世界の中でも飛びぬけているとすれば、それが加速力です。
列車密度が高い日本では、新幹線にも通勤電車並みの加速力が求められているといっても過言ではなく、特に東海道新幹線でその性能が際立っています。
鉄道車両に限らず、物体が加速する際には、速度が上がるにしたがって走行抵抗や空気抵抗などが増大し加速力は低下してしまうため、速度を0とした時点での加速力を「起動加速度」と呼んでいます。この数値が大きいほど、加速力が強いことを示しています。
2000年代以降に製造された車両の場合、通勤型で概ね3.0㎞/s程度(1秒間に3㎞/h加速)の加速力が一般的で、特急型の場合で2.0㎞/s程度、近郊型ではその間程度となっています。駅間が短い地下鉄や大手私鉄の普通列車用ではこれより高い例もあり、E233系のうち東京メトロ千代田線に乗り入れる2000番台は3.3㎞/sと、千代田線の16000系に合わせた性能を持っています。
こうした中、大都市の通勤路線同様に列車密度の高い東海道新幹線では、最高速度の向上とともに加速力の向上にも力が入れられてきました。
最新型のN700S系では、軌道加速度は2.6㎞/sと、通勤電車に近い加速力を持っていることが特徴で、0系の1.0~1.2㎞/sと比べると2倍以上、現在運行されている他の新幹線の1.6㎞/sと比べても、相当の加速力であることが分かります。
これが世界となるとさらにその差は歴然。ドイツICEの最新型ICE4では1.9㎞/sで、動力集中型を採用するフランスのTGVではさらに遅く1.6㎞/sとスペック上はなっていますが、動画を見る限り本当にそこまでの加速力があるのかが疑問です。
実は、日本の鉄道事情は世界の中でも特殊な状況に置かれています。
国土の大半が山地で、わずかな平地に密集して市街地が形成されてるため、高速鉄道といえど人口密集地を避けて通ることができません。このため、日本の新幹線は高いレベルで騒音、振動への対策が求められます。また、国土が山がちということは、急こう配の存在や建設費の高騰も避けられません。
また、気象条件も厳しく、たびたび襲う大地震に対する備えも欠かせません。台風による大雨や暴風に見舞われることも珍しくなく、高い湿度が設備に与える影響も大きなものです。国土が南北に長い日本では、冬には雪に覆われる地域も少なくなく、新潟県の山間部などは世界でも有数の豪雪地帯ですが、雪の多い地域の高速鉄道は世界的にも珍しい存在となっています。
国策による長いビジョンがなく、政策や権利に振り回され続ける日本の新幹線。一つ一つの項目は世界にリードされても、世界的にも驚異的に優秀であることは間違いなさそうです。
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