マイクロエースから大物車シキ801が発売 大型ながらカーブ性能が向上
マイクロエースから、特大貨物車のシキ800形が発売されます。
モデルとなるのは、3両が製造されたシキ800形のうち、現在も唯一運用されているシキ801で、積み荷は別売りとなっています。シキ800形は積み荷に応じて梁を載せ替えて積載方法を変えることができ、それに応じて車番も変わるという特殊な運用が組まれますが、モデルでは「B1梁」を搭載した「シキ801B1」が再現されています。
マイクロエースからシキ800形が発売されるのは初めてではなく、過去にはシキ800、シキ810が製品化されていますが、その特殊な外観と長さゆえに通過カーブの半径に制限がありました。今回のシキ801では、それらの見直しにより半径280㎜、複線間隔33㎜でも支障がなくなったということです。
シキ800形 大重量の貨物を運ぶ「大物車」の一つ その特徴とは?
シキ800形は、大物車と呼ばれる貨車の一つで、1973年(昭和48年)にシキ800、1974年(昭和49年)にシキ801、1990年にシキ810の3両が製造されました。
大物車とは、貨物の中でも特に大型、大重量の荷物を運ぶための車両で、世界各国で使用されています。
通常貨物を輸送する方法としては自動車、船舶、鉄道、航空機などが考えられますが、超大型の貨物となると重量制限の大きな航空機は不適となり、逆に船舶は大重量の輸送には適していても、付近に海や大きな河川がない場合は使用できません。
また、自動車を使用する場合も、超大型貨物の長距離輸送には交差点の通過や橋梁の通過、車高に制限がつくこともあり、こうした場合に活躍するのが鉄道貨車の大物車です。
日本で比較的利用される機会が多いのは、変電所で使用する大型の変圧器を工場から変電所へ輸送する場合などで、重さ100tを超えるような貨物が輸送されることもあります。なお、到着駅からは超大型トレーラーなどに積み替えられ、目的地へと運ばれるケースがほとんどです。
大重量に耐えるため車輪を多く持っているのが特徴で、シキ800形はボギー台車を8組で車輪16組という構造になり、これにより最大で160tの貨物を積載することが可能です。
シキ800形では、台車2組を1つとして台車上枠が設けられ、さらに上枠2つを1組として枕枠が置かれ、これに荷受梁と呼ばれる貨物を積載するための構造物が取り付けられています。この荷受梁は貨物の形状によって交換することが可能で、シキ800の製造時には、B1梁、B2梁、B2+C梁が用意されました。ただし、シキ801の増備時にはB2+C梁のみ、シキ810にはB2梁のみが製造され、シキ801増備時にシキ800のB1梁がシキ801用として転用されています。また、シキ810はかなりの期間をおいて製造されたため、台車やブレーキシステムが異なっていましたが、2009年に一足早く廃車となり、足回りとB2梁をシキ801に移植しています。
B梁、C梁については次章で解説していますので、今は「シキ800は3形態ある」とだけ思っていただければ十分です。また、それぞれの形態により車体重量や長さが変わることから、シキ800の形式板は差し替え式となっており、形態に応じた形式板が使用されます(例えばシキ801がB2梁を搭載した場合、形式板は「シキ801B2」が使用されます。ちなみにその裏には「シキ801B1」と記載されています)。
特殊な構造をしていることや、大重量の貨物を輸送するため、最高速度はかなりの制限を受けることとなり、シキ800形では空車時75㎞/h、積車時45㎞/hとなっています。このため、特に積車時は通常のダイヤに影響を及ぼしにくい深夜に運行されることがほとんどとなっており、両数の少なさやそもそも運行日数の少なさから、ほとんど目にする機会のないレアな車両となっています。
なお、シキ800形より一回り大型のシキ600形は、3軸台車8組で24組の車輪を持ち、最大で240tの貨物を積載できます。
大物車につくアルファベット 「B梁」や「C梁」ってどういう意味?
今回マイクロエースから製品化されたシキ800形は、正確には「シキ801B1」と呼ばれる状態です。
また、同じ大物車のシキ1000形でも、シキ1000Dという形式板がつけられています。形式の後ろの「B1」とは何なのででしょうか?
大物車は、その積載形態により、大きく分けて下記ように4種類に分類され、国鉄ではA~Dと区別していました。その呼び名と、使われ方は下記の通りとなります。
低床式(A梁)/分割低床式(D梁)
両端の台車部分を除き、荷台部分を低床式としたもので、横から見れば凹型をしている。2階建て車両などもほぼ同じ構造。積み下ろしは一番簡単だが、低床式と言っても床面高さの分、積載する貨物の高さに制限が大きくなる。また、積み荷の重量が折れ曲がった部分にかかるため、強度面から積載する貨物の重量も制限が大きい。
なお、低床式の中には荷下ろしがしやすいよう、荷台の一部が外れて車外へ持ち出せるようになっている構造のものあり、これは分割低床式(D梁)として区別される。
吊り掛け式(B梁)
対象となる貨物を2分割した車体で挟み、接触部分の下側をヒンジで固定し、さらに積み荷側へ倒れようとする荷受梁で貨物を固定ししき載する方法。もっとも大型で重量のある貨物を運ぶことができるが、車体にも相当の強度が必要。シキ800形がこれを搭載した場合、形式はシキ800B1形またはシキ800B2形となる。
なお、B1とB2の違いは、積載する貨物の荷主の違いで、アタッチメントの形状が違うことから2種類が用意されいてる。
落とし込み式(C梁)
荷受梁にさらに梁をかけ、両側に設置された梁の間に貨物を落とし込み、梁に引っ掛けて積載する。シキ800形の場合、C梁のみでは使用できず、B2梁と同時に使用されつるため、C梁を装備した場合形式はシキ800B2Cとなる。ただし、積載能力は吊り掛け式によりやや劣り、B2梁のみの場合の160tに対してC梁を使用した場合は140tとなる。回送時には、C梁は取り外されてトレーラーなどで別に運搬され、B2形態で運行される。
なお、細かく分類すればこれに当てはまらない形式も存在しますが、ここではこの4種類を紹介しました。
需要が大幅に減少した大物車 今後も存続する?
大物車は、先にも述べた通り大重量の貨物を運搬するための特殊な車両で、かつその貨物は精密かつ高価なものであることが多いことから、その運搬には相当の丁寧さが求められます。そのため、外観や車両の性能はあまり考慮されることなく、あくまで「安全に輸送できるか」を追求したための極めて実用的な姿と言えるでしょう。
また、ダイヤに及ぼす影響も大きいことから、年単位で計画が練られていることも珍しくなく、貨物自体も貨車に積載できるよう設計段階から運搬までが考慮されているのも特徴です。
道路の改良が進み、自動車輸送が盛んな現在では、あえて鉄道で輸送する必要も低下し、こうした大物車は次第に淘汰される傾向にあります。しかし、今なお大物車が存在しているのは、時として自動車では輸送不可能な貨物が存在しているためで、今後も少数とはいえ存続することには違いないでしょう。