ニューヨーク地下鉄 治安悪化はなぜ? 武装兵士が警戒のため配置される

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ニューヨークの地下鉄で、治安維持のため武装した州兵など1000名が配置されました。かつては「犯罪の温床」といわれたものの、近年は「日本と変わらない」と言われたニューヨークの地下鉄ですが、2024年に入って急速に治安が悪化しているようです。治安悪化の理由とはいったいどういったものなのでしょうか。
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ニューヨーク地下鉄 犯罪多発で治安要員1000名を配置へ 武装兵士も

アメリカ・ニューヨークを走る地下鉄で、警備強化のため1,000人の治安要員が配置されることとなりました。

これは2024年3月6日に州知事が発表したもので、ニューヨーク州や地下鉄当局に所属する警察官250人に加え、武装した州兵750人が配備されるということです。州兵には逮捕権などはありませんが、混雑時間帯に無作為に手荷物検査を行うなど、警察の支援を行います。

メディアの映像からは、駅構内や地下鉄車内でライフル銃を持った州兵や防弾チョッキを着用した警察官が警備に当たっている様子や、乗客の手荷物をチェックしている様子がうかがえます。

この警備強化の背景にあるのは、地下鉄での治安の悪化です。

地元のメディアによると、2024年1月のニューヨークの地下鉄では、昨年の同じ月に比べて犯罪件数が45%も増加しました。乗客同士のトラブルや暴力行為にとどまらず、刃物を持った乗客が乗務員や他の乗客に襲い掛かるといった凶悪犯罪も多く、さらに銃撃で乗客が死亡する事件も2月までに3件発生しました。

ニューヨークの地下鉄は、市民の足として使われることはもちろん、観光客にも便利な存在となっていますが、こうした事態は市民生活や経済にも大きな影響を与えかねないことから、いち早く事態の収拾を図るため、今回の処置が行われた模様です。

なお、治安要員の配置と合わせ、車内や駅構内への防犯カメラの設置、暴力行為の厳罰化といった法整備も併せて進められる見通しで、「飲酒運転で免許を失う」のと同様、暴力行為で有罪となった人が、地下鉄やバスに乗車することを一定期間禁止できるようにする制度も設けられる見込みです。

なぜ? ニューヨーク地下鉄の治安悪化の理由とは

しかし、なぜ今ニューヨークの地下鉄でこれほど治安が悪化しているのでしょうか。

1つ目の理由とされているのが、コロナ禍による人流の変化です。

地下鉄が走るのはオフィス街や商業地などの市街地であることが多いですが、コロナ禍によって仕事のリモートワーク化や出控えが進み、これらの地域では人出が大きく減少。市街地では人出を当てにしていた多くの商店が閉店に追い込まれました。

店舗の閉店により失業者が増加し、さらに人出の減少により都市がスラム化。道行く人も少なくなって、犯罪が蔓延りやすい状況となってしまいました。

これに加えて2つ目の理由が、物価の値上がりです。

近年ネット上などではニューヨークを始めとしてアメリカでの物価の高さが話題となっていますが、これにより持つ者と持たざる者の差が大きくなり、貧富の差が拡大しました。

こうなると、余裕のある富裕層は、スラム化した都市部を避けて自動車を所有して郊外で生活するのに対し、公共交通機関を利用するのは自動車を所有できない貧困層が中心となり、これがさらに治安の悪化を招くこととなっています。

さらに3番目の理由として挙げられているのが、大麻の合法化です。

アメリカ全土としてはまだ認められていない大麻の所持・仕様ですが、条件を満たせば合法となる州も存在しています。大麻が体に及ぼす影響などについてはともかく、合法となるケースでも大麻に紛れて覚せい剤や違法ドラッグの売買が横行し、これらの使用者による治安の悪化が顕著になっています。

こうした治安の悪化はニューヨークに限らず、アメリカ全土で問題となりつつあり、特に不法移民が多いとされるニューヨークやサンフランシスコでは顕著になっている様子です。統計上はそれほど悪化の兆候は見られないものの、発表されている数字は警察が認知した件数であり、あまりの発生件数の多さに認知が追い付いていないのも現状のようです。ニューヨークでは、例え万引きしたとしても被害額が1,000ドル(約15万円)以下なら窃盗とはならず、しかも現行犯でないと捜査や逮捕もされないようなケースも報告されています。従業員の安全確保という点から、老舗店が閉店する例も相次いでおり、経済への影響も無視できないものとなっています。

ただし、日本と違ってこうした治安悪化は局地的であることも多く、スラム化した地域では極端に治安が悪くなる一方、高級住宅地が立ち並ぶ地域ではそれほど心配する必要もなさそうで、現地では「〇〇線の□□駅と××駅の利用は避けたほうがいい」といったような認識のようです。

また、当局の努力もあり、2024年2月末現在では地下鉄での犯罪件数が昨年比13%の増加にとどまっており(減ったわけではない)、このまま改善が進むことが期待されています。

かつては犯罪の温床だったニューヨークの地下鉄 その歴史

ニューヨークの地下鉄は、ニューヨークの中心地マンハッタンを中心に33路線375㎞を有し、1日の利用客が400万人を超える、世界でも有数の規模を誇る地下鉄です。

ニューヨークの地下鉄 1系統
ニューヨークの地下鉄は、日本のように路線ごとの運行ではなく、数字とアルファベットの系統として運転される 基本的に3複線または複々線で、急行運転も行われる 時間帯により運行系統は変更され、同じホームでも終日同じ行先の電車が来るわけではない Wikipedia(New_York_City_Subway:英語版)より @EmperorOfNYC

ニューヨークの公共交通機関は、1800年代の初めに乗合馬車や馬車鉄道が登場、都市の発展とともに利用客は飛躍的に増加し、19世紀末には都市の混雑が社会問題となっていました。1867年には後に地下鉄の一部ともなる高架鉄道が、1892年には路面電車が開業し、馬車による輸送は終焉を迎えることとなります。

しかし、高架鉄道は蒸気機関車による運転が中心で、速度も遅く、また景観上や排煙の問題で市民の評判は良くありませんでした。その後ニューヨークの交通機関はstreetcarと呼ばれる路面電車が中心となり、最盛期には総延長800㎞、1日の利用客は200万人以上を誇っていました。

1904年、現在の地下鉄につながる最初の路線がニューヨークに開業、ボストンに次ぎアメリカで2番目の地下鉄でした。運営主体は二転三転したものの、地下鉄は都市景観に影響を与えることなく、煤煙も出ず便利な乗り物として、急速に普及することとなります。1920年代のアメリカでは早くもモータリゼーションが到来し、ニューヨークでは交通渋滞が深刻化、路面電車に代わる交通手段の建設が望まれました。また、空前の好景気により人口は急増し、市街地は拡大、中心部マンハッタンには高層ビルが立ち並ぶようになりました。

こうした影響から、1920年代は地下鉄の建設ラッシュとなり、多くの区間で高架鉄道や路面電車を置き換え、第二次世界大戦がはじまるころには、現在の主要路線のほとんどが完成し、アメリカの経済力の高さを示す指標ともなりました。

しかし、1960年代になると、初期に開業した地下鉄の老朽化が問題となります。ちょうどこの頃には、ベトナム戦争や人種差別をはじめとする社会問題が表面化、アメリカ社会全体が不安定となり、ニューヨーク自体が「世界で最も治安の悪い街」とされるようになりました。

こうした世相を反映し、古く暗い地下鉄構内や車内では重大犯罪も頻発。スリ、強盗といったものから暴行、殺人、強姦などありとあらゆる犯罪の温床となっていました。グラフィティと言われる落書きで埋め尽くされた電車が走っていたのもこの頃で、現地でも「一人では地下鉄に乗るな」とまで言われていました。

1970年代のニューヨーク地下鉄
1970年代のニューヨーク地下鉄の車内 車内外を問わず落書きで埋め尽くされ、運行は不安定 構内や車内では重大犯罪も頻発し、異様な匂いなどが漂い気軽に利用できる乗り物ではなかったという Wikipedia(New York City Subway:英語版)より 

富裕層がこうした地下鉄を敬遠し、自動車での移動に切り替えると、地下鉄は自動車を所有できない低所得者層の利用が中心となり、さらに治安が悪化(今回と同じですが、諸外国では社会不安が起こるとすぐに治安が悪化し、公共交通機関はそれを反映してしまうので、このような動きは毎回素早く起こります)、利用者は1910年代の水準にまで落ち込みました。

1980年代以降は、こうした評判を一掃すべく、地下鉄の改善が進められることとなり、特に1990年代以降はニューヨークの治安回復の象徴として、再評価されることとなります。

2023年から営業を開始した、ニューヨーク地下鉄としては最新型となるR211形 川崎重工業製で、500両程度の納入が予定されている 車内は最近の日本製らしく、警戒色を多用した配色で案内の視認性を高めている また、扉上部の液晶ディスプレイ、タッチパネル式の路線図などが装備され、壊されたり盗まれたしないところを見るとさほど治安は悪くないようだ なお、この車両は現地では珍しい貫通幌を装備している それはそれで別の問題からだそうなのだが・・(気になる方は「地下鉄サーフィン」で調べてみてください) Wikipedia(ニューヨーク市地下鉄R211形電車)より @ARMcgrath

落書き電車はほとんど姿を消し、警察官が車内や構内に常駐することで犯罪は激減、一部を除くと海外旅行客にも非常に便利で快適な交通手段となり、コロナ禍前の2014年には利用客が過去最高となってました。

しかし、今回再び社会不安を受けて治安の悪化が叫ばれているのは、まさに歴史が繰り返されるところであり、今後の対応に注目が集まっています。

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