ウクライナの鉄道輸送の障害となった線路幅 異なる線路幅の直通事情

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ウクライナからの穀物輸出を船舶から鉄道に代替…が進まないわけ

ロシアによるウクライナ侵攻は、2022年7月になっても先が見通せず、長期化が避けられない様相となり、国際的にも大きな影響が出始めています。

特にウクライナは小麦、トウモロコシなど世界でも有数の食糧輸出国で、ロシアによる沿岸地域の封鎖でこれらの輸出が半減しており、数千トンともいわれる穀物がウクライナで足止めとなっています。何らかの方法で輸出しなければ、世界を巻き込んで食糧危機に見舞われる恐れもあります。

そこで、陸路で近隣国へ運び、そこから輸出する代替ルートの確保に取り組むことが協議されています。船舶で輸送される量の貨物を完全に陸路へ振り替えることは難しく、自動車輸送では話にならないため、鉄道による輸送が検討されています。

輸送が再開されれば、世界の食糧事情にとってこの上ない朗報となりますが、なかなか事態は進展していないようです。その理由の一つとして挙げられているのが、線路の幅=軌間の問題です。

線路幅 世界「標準」は1435㎜ ウクライナは1520㎜ 

陸続きのヨーロッパですが、鉄道線路の幅は国や地域によって異なっています。

日本を含めた世界の鉄道の線路幅は、1435㎜の線路幅を基準とし、これを標準軌と呼んでおり、それより広い線路幅を「広軌」、狭い線路幅を「狭軌」と呼んでいます。

日本においても、在来線は明治の開業以来狭軌の1067㎜を採用、のちに建設された新幹線は標準軌1435㎜在来線で、在来線とは線路幅が違うため、そのままでの直通運転は現在のところ実現されていません。また、JRと私鉄でも線路幅の違う会社があり、路線の成り立ちから同じ会社の路線でも線路幅が違う場合も存在します。

そして今回のウクライナからヨーロッパ諸国へ向けて鉄道による食料の代替輸送が難しいという問題に戻ると、ウクライナの鉄道は大部分が線路幅1520㎜の広軌を採用しており、ヨーロッパの多くの国が採用している1435㎜の標準軌より大きいため、直通運転が不可能となっています。このため現在の体制では、ウクライナ国内を鉄道で運ばれてきた貨物は、国境で隣国の貨車に載せ替える必要があり、コストや時間、そして輸送力の面で大きなネックになると考えられています。

新幹線の1435㎜と、在来線の1067㎜の3線軌条となっている津軽海峡線 1435㎜と1520㎜は幅が近すぎるため、この構造は不可能とされている Wikipediaより

この問題を根本的に最も将来性のある方法で解決するためには、ウクライナ国内の線路幅を変えなければなりません。実際、ウクライナでは戦争終結後に1435㎜を採用した鉄道の建設を表明していますが、新たに作るにしても現在の線路を作り直すにしても、準備期間を含めれば数か月あるいは数年単位の年月が必要となるため、いま取り組むのは現実的ではありません。また、80億ユーロ以上(1ユーロ140円として1兆1200億円以上)という巨額の費用が必要とみられています。

線路幅が違う… これを解決する方法はある?

では、異なる線路幅の鉄道で、旅客や貨物を簡単に通行させる方法はないのでしょうか。

もっとも簡単なのは、先にも紹介した通り、国境または線路幅の変わる地点や駅で乗り換え、あるいは載せ替えることです。旅客は自分で歩いて乗り換えできますが、貨物はそうはいきません。コンテナならフォークリフトで載せ替えもできますが、パレット積みの荷物やバラの荷物は一度降ろして積み替える必要があります。現在はこれが大きな負担となり、貨物輸送の船舶から鉄道への移行が進まない理由となっているのです。

実は、無理にでも直通させようと思えば方法がないわけではありません。

例えば、隣国ポーランドとウクライナの間には国際列車も運行されており、なんと旅客を乗せたままジャッキで車体を吊り上げ、台車を交換しています。このような施設を持つ国境は複数設けられているようですが、やはり通過に時間がかかるため、日常的に使用しているのは1日数本の長距離列車に限られるようです。このため、大編成の貨物列車の台車をすべて交換することは、現実的ではなさそうです。

Train Gdynia – Przemyśl – Lvov in PKP Intercity Sleeping Car поїзд гдиня – Перемишль – Львів
ポーランド北部のグディニャGdyniaとウクライナ西部のリビウLvivを結ぶ国際夜行列車の様子 動画では15:20頃にプシェミシルPrzemyśl Główny駅へと到着、複雑な解結を経て国境を越え、23:00頃から台車交換作業の様子が映されている 他の乗車記によれば、作業中は起動、停車を繰り返すうえ作業音や振動も多く、深夜にこの区間を通過となるポーランド行きの列車では寝心地はあまり良くないようだ 2022年6月現在、この列車が運行しているかどうかは不明

なお、この台車履き替えは同様に1435㎜を採用する中国とロシアを結ぶ国際列車などでも行われている他、実は日本でも見ることができます。近鉄橿原神宮前駅には、1067㎜の南大阪線系統の車両を1435㎜軌道の橿原線との間で行き来させるため、台車の交換施設が設置されれています。ただし、これは検査などで大阪線の五位堂工場への移送時に限られ、旅客を乗せるどころか、自走不可の状態で牽引されます。

ウクライナとの国境に近いポーランド南部のプシェミシルPrzemyśl Główny駅 ウクライナからの列車が日常的に乗り入れるため、5面8線あるホームのうち2面3線が1520㎜軌道となっており、ここからウクライナへ向けては1435㎜と1520㎜の両方の線路が敷かれてる 写真の説明によれば、停車しているのは軌間1520㎜のウクライナ国鉄の車両で、手前の2線は1435㎜であるようだ また、駅構内には台車を交換するための設備もある Wikipediaより

もう一つの方法は、軌間を変えることができる車両を使用することです。

日本では、フリーゲージトレインや軌間可変車両などと呼ばれており、1990年代から開発が続けられていますが、いまだ実現していません。しかし、ヨーロッパでは1960年代から実用化されており、軌間の異なる国同士の乗り入れも行われています(「西九州新幹線の未着工区間はどうなる フリーゲージトレインに再び脚光?」もよろしければご覧ください)。

ロシア国内を走るスペイン・タルゴ社製の客車を使用した高速列車「ストリージСтриж」 振り子式機能を備えた連接車で、独立車輪を採用し車高の低いスペイン独特の構造が特徴 ロシア国内は1520㎜軌間だが、2016年にはベルリンとの直通列車の設定に合わせて1435㎜との軌間可変機構を搭載した編成も導入された(2020年以降はコロナウィルス感染拡大の影響により運休中) 1668㎜を採用するスペインは軌間可変車両の大先輩で、1969年より1435㎜を採用するフランスとの間で直通列車を運行している Wikipediaより
スイスの観光路線の一つ、ゴールデンパスで導入予定の軌間可変車両 私鉄主導で鉄道建設の進んだスイスでは様々な線路幅が採用されており、旅客が乗り換えを強いられることも多い この車両は1000㎜~1435㎜の間で対応しており、動力を持たないとはいえ、日本がフリーゲージトレインの実用化ができない言い訳の一つとしている「狭軌で機器搭載のスペースがない」という問題もクリアしている 2022年秋ごろより運行を開始する予定Wikipediaより

しかし、やはりネックとなるのは車両コストで、単価が高く収入が見込める高速列車や観光列車はともかく、普通列車や貨車にまでこの機能を搭載することは現実的ではありません。

結論からすれば、やはり幅の異なる線路の直通運転は難しく、どちらかが線路幅を合わせるしかなさそうです。日本においてもこのような例はあり、かつて1372㎜軌道を採用していた京成電鉄は、1435㎜軌道を採用する都営地下鉄浅草線や京浜急行との乗り入れに合わせて50日をかけ線路幅を変更する工事を実施、1067㎜軌道だった近鉄名古屋線は、大阪線との直通運転を行うため、伊勢湾台風からの復旧工事と合わせて1435㎜軌道へと変更されています。

そもそもウクライナはなぜ線路幅が1520㎜なのか?

ヨーロッパ諸国とも陸続きのウクライナは、なぜ直通運転に便利な標準軌の1435㎜ではなく1520㎜という広軌を採用しているのでしょうか?

それは、かつてのロシア帝国や旧ソ連の影響です。現在もロシアでは1520㎜の軌間が標準となっており、歴史的に結びつきの深いバルト三国やモンゴル、そしてウクライナやベラルーシといった国では1520㎜軌間が採用されていて、この軌間は世界の中で標準軌に次いで路線長が長くなっています。また、西側諸国として扱われるフィンランドも、19世紀にロシア帝国の支配下にあった影響で1520㎜軌間を採用しています。

ちなみに1520㎜軌間は5フィート軌間とも呼ばれ、もともとは1524㎜でしたが、旧ソ連時代に1520㎜に再定義されています。国によっては1524㎜と呼称しているところもありますが、直通運転に差支えはありません。

ではどうしてロシア帝国は1520㎜の軌間を採用したのか? これについては隣国が鉄道を利用して侵略してくることを防ぐため、あえてヨーロッパ諸国と異なる線路幅を採用したという説がありますが、これは正しくないとされています。線路幅は広いほど速度が出しやすく、走行が安定しますが、車体が大きくなって広い用地が必要となり、急カーブも設けられないため建設費用が高くなります。それぞれのメリット、デメリットを天秤にかけた結果、多くのヨーロッパ諸国は1435㎜を採用しましたが、ロシア帝国はたまたま1520㎜を採用したというのが理由のようです。19世紀の人たちは、これほど国をまたいだ移動が盛んになるとは思っていなかったのかもしれません。

なお、線路幅は日本人の感覚からすると中途半端な数字が多くなっているのは、これはもともと線路幅が鉄道発祥の国イギリスの単位、インチヤード法で考えられているためです。例えば日本の在来線の線路幅1067㎜は、インチヤード法では3フィート6インチ(インチヤード法は12進法なので6インチ=1/2フィートとなり、1067㎜は3と1/2フィート)となります。標準軌の1435㎜とは4フィート8と1/2インチになりますが、もともとは4フィート8インチを調整した結果であるとも言われています。京王電鉄や都営地下鉄の一部で採用されている1372㎜は、同様に4フィート6インチとなります。

一部の国では、メートル法で線路幅を決定している路線もあり、軌間1000㎜というのも存在し、これらはメーターゲージと呼ばれます。

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