オリンピック輸送で夜行新幹線 過去にも考えられた新幹線の深夜運行とは?

東北新幹線新幹線

※本記事は2021年7月4日に執筆したものです。2021年7月9日、1都3県でのオリンピック競技が原則無観客となったことに伴い、首都圏21線区で計画されていた終電以降の深夜帯の臨時列車は取りやめとなりました。その後、東北新幹線の深夜~夜行運転も中止する発表がありました。

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夜行新幹線? JR東日本が東北新幹線で臨時列車の運転を発表

JR東日本はオリンピック観客輸送のため、新幹線の夜行運転を含む臨時列車運行計画を発表しました。首都圏を中心に、競技の予定されている施設の近隣を走る路線で増発や終電の延長が行われます。

例えば首都圏の場合、7月23日(一部7月21日)から8月9日にかけて山手線を深夜2時半ごろまで延長するほか、京浜東北線や中央線などほとんどの路線で1時~2時半ごろまでの終電延長が予定されています。

そしてこの中でも特筆されるのが、東北新幹線の夜行臨時列車です。東北新幹線では、宮城スタジアムで競技が開催される日に限り、仙台駅を中心として上下線で合わせて臨時列車が最大4本運転されます。

夜行新幹線 運転日と運行区間・運行時刻は?

JR東日本の発表によると、夜行列車を含む臨時東北新幹線の運転日、運行区間、運行時刻は以下の通りとなっています。

下り(盛岡方面) 東北新幹線臨時列車運転時刻表

列車名やまびこ
411号
やまびこ
413号
仙台23340030
古川23510047
くりこま高原00030059
一ノ関00140110
水沢江刺00260122
北上00360132
新花巻00440140
盛岡01000156
運転日7/317/21,24,27,28
※仙台以外は着時刻

上り(東京方面) 東北新幹線臨時列車運転時刻表

列車名やまびこ
244号
やまびこ
402号
やまびこ
412号
やまびこ
422号
仙台2113223923330045
福島2135230900030125
郡山2155232800220154
大宮2250004201360346
上野2310011002040414
東京2316011602100420
運転日7/317/317/21,24,27,28,317/21,24,27,28
仙台以外は着時刻

話題となっているのは『やまびこ』422号で、東京到着が4時台ですから、これはもう立派な夜行列車というわけです。

『やまびこ』422号の所要時間は3時間35分で、この区間を運行するほかの『やまびこ』が2時間ほどで運行していることと比べるとかなりのスローペースとなります。これにはいくつかの理由があると考えられています。

臨時夜行『やまびこ』の所要時間が長い理由

臨時夜行『やまびこ』の所要時間が長い理由は、以下の通り考えられています。

  • 到着時間が早くなりすぎるため
    • 東京駅に早く着きすぎても、接続する電車がありません。首都圏の始発電車が動き始める時間に合わせてダイヤが組まれた可能性があります。
  • 騒音対策で速度を落とすため
    • 通常新幹線は0時~6時は保守時間にあてられています。これは、新幹線が6時~24時の走行を想定して騒音基準をクリアしているためで、この時間以外の騒音基準が厳しくなる深夜の営業列車はダイヤ乱れなど緊急事態を除き存在しません。深夜帯に運行するためには、騒音を抑えるため通常の速度での運行は不可能です。

過去にもあった ワールドカップで深夜運転の新幹線

台風や災害などでダイヤが乱れた場合を除き、深夜帯に新幹線が運行されたケースは過去にもありました。記憶に新しい例では、2002年のワールドカップ開催の際、アクセス輸送を担う路線で試合開催に合わせて臨時列車が多数運転されましたが、この臨時輸送に新幹線も含まれていました。

その時のダイヤは以下の通りであったとされています。

  • 2002年6月12日(始発駅基準)
    • 東海道新幹線において、掛川発東京行きを0・1時台に15分間隔で6本、名古屋行きを2本
  • 2002年6月15日~16日(始発駅基準)
    • 上越新幹線において、新潟発東京行きを23:20~1:40の間10分間隔で15本を運転

ネットやSNSが普及する前の出来事なので、詳しい記録はあまり残っていませんが、国土交通省のまとめでは最大乗車率が130%程度であったということなので、それなりの需要があったということでしょう。

大阪万博と新幹線深夜運行 0時越えひかり326号とエキスポこだま

新幹線の深夜運行という点で語らずにはいられないのが、1970年に開催された大阪万博輸送です。

総入場者数6000万人という空前のイベント輸送のため、開業後間もない東海道新幹線も輸送力増強が進められました。開業時12両だった編成が現在と同じ16両となったのもこの時で、万博輸送のため35%の輸送力増強が図られました。

しかし、実際に開幕してみると、閉園まで残留する人たちの数が事前の予想をはるかに上回り、これらの人々が帰宅するための深夜帯の輸送力不足が顕著となりました。このため、東海道新幹線も急遽深夜の輸送力を増強することとなり、「新幹線は0時まで」という原則を破って設定されたのが『ひかり』326号でした。

『ひかり』326号は新大阪を21:10に発車し、終点の東京には0:20着(当時の『ひかり』所要時間は3時間10分でした)で、当時の国鉄の案内によると、この列車を利用すれば中央線武蔵小金井、京浜東北線大宮・桜木町、総武線津田沼、常磐線松戸までの連絡があったようです。

また、新幹線の深夜運行ではありませんが、変わり種として運行されたのが臨時急行『エキスポこだま』でした。

大阪万博の予想外の入場者数の多さに国鉄では次々と臨時列車を追加しましたが、中でも閉園時間まで万博を楽しみ、翌日は通常通り出社したいという首都圏からの需要は大きいものでした。この需要にこたえるために大阪発深夜の夜行列車を設定することとなりましたが、ネックとなったのが首都圏のラッシュでした。大阪を深夜に発車する列車が東京へ到着するのは、ダイヤ的にちょうど首都圏の朝ラッシュと重なり、臨時列車を割り込ませる余裕がありませんでした。

そこで登場したのがこの『エキスポこだま』で、この列車は22:58に大阪を発車し、静岡県の三島へ6:53に到着。ここで従来は回送で東京へ向かっていた新幹線を営業化し、7:05発の『こだま』492号として接続させることで、東京に8:10に到着できるダイヤを実現しました。

万博輸送で国鉄車両がフル稼働という中、編成は各地から集められた旧型客車12両ないし13両が使用され、夏以降は予備車なしという綱渡り運用が組まれていました。

この『エキスポこだま』は、全線通しの料金が700円と、『 ひかり』の特急料金1900円に比べ割安だった(運賃は別に2230円 。安い!)ことから利用は非常に好調で、期間を通じての利用率は90%に達したとも言われています。

実は計画されていた夜行新幹線と夜間貨物新幹線

2021年現在のところ、こうした特別な例に限られている夜行新幹線ですが、実は新幹線開業時には夜行運転が計画され、そのための設備も作られていました。

東海道新幹線の開業に当たっては、新幹線を利用した貨物列車の運行も検討され、開業翌年の1965年には実際に施設の建設も始まりました。しかし、予想外の旅客輸送の伸びにより深夜に保守作業を集中させることとなったため、いつしかこの話は立ち消えとなりました。

摂津市にあった東海道新幹線貨物船分岐工事跡
東海道新幹線は日中旅客、夜間貨物として運用することも検討され、東海道新幹線の本線から分岐して貨物ターミナルを建設し、東京―大阪を30両編成のコンテナ車が最高速度150㎞/h程度、約5時間半で結ぶという案もあった しかし東海道新幹線自体の建設費が大幅に予算を超過し問題となり、さらに旅客輸送の好調で線路の保守時間確保が難しくなったことや、夜間の騒音問題から深夜運行はいつしか立ち消えとなった 写真は大阪府摂津市にあった貨物駅への分岐線として建設された高架橋で、開業以来長らく放置されていたが2012年より順次解体された Wikipediaより

また、山陽新幹線の開業に際しては、東京―博多の乗車時間が7時間程度(当時)となることから、当然夜行運転も計画されおり、1973年に制作された試験車両961型では実際に寝台車の製作も行われました。

961形新幹線試験車両
1987年当時の961形新幹線 961形は、当時計画が進められていた新幹線整備に対応する車両として1973年に6両1編成だけ試作された 交流電源の50hz/60hzどちらにも対応し、雪対策も施され、新幹線網が確立された後の全国汎用車両としての要素も強かった 2年後の博多開業を控え、乗車時間が長くなることを踏まえて3号車は食堂車も試験的に連結され、余裕ある車体幅を活かして通り抜け客と食堂利用客を分離するレイアウトもここで生まれた 4号車は寝台+個室の構成とされ、グループルームや特別室など多彩な施設が設けられており、後の個室寝台の参考とされた例もあった 当初は東海道新幹線や開業前の山陽新幹線で試験に用いられ、その後に東北新幹線開業前の試験に用いられた後は仙台総合車両所にあり、1992年に廃車となっている Wikipediaより

また、夜間の保守時間を確保するため、東京―博多のほぼ中間となる区間では上下線をそれぞれ単線と利用できる構造とされ、行き違いのために西明石―姫路―相生とこまめに駅が設けられることとなりました。西明石、相生の両駅両側にある使われていない渡り線は、この計画の名残と言われています。

しかし、実際には夜行新幹線は運行されることはなく、貨物新幹線も実現することはありませんでした。

海外にはある? 夜行新幹線

結局日本では正式には運行されなかった夜行新幹線ですが、海外には新幹線を利用した夜行列車が存在します。

例えばドイツでは、新幹線車両ICEを使用した夜行列車が国内全土で運行されています。特に2016年にそれまでヨーロッパ内で夜行列車を運行していたシティナイトラインが運行を停止、この代替としてドイツ国内で夜行ICEを拡充することが発表されました。

ドイツ新幹線ICE699列車時刻表
ドイツ鉄道 Deutsche Bahn のwebサイトから検索した、高速鉄道ICEの夜行列車の例 ICE699列車は、19:18にドイツ北部のハンブルグを出発、首都ベルリンとフランクフルトを経て翌朝7:31に南部のミュンヘンに到着する ハンブルグ―ベルリン―フランクフルトは通常のICEと変わらない所要時間だが、フランクフルト―ミュンヘンは通常3時間半ほどのところが5時間強と若干スローペース 人口密度が低いヨーロッパでは、高速鉄道は人口稀薄地帯に作られることがほとんどで、騒音問題はまず発生していない 

2021年現在、夜行のICEが運行されているのは数路線で、夜行とまではいかないまでも深夜2時台、3時台に終着駅へ到着、あるいは始発駅を出発する列車までを含めると、ほぼドイツ全土で運行されています。

ただ、日中の列車と比べると、若干スピードダウンされている例も散見されます。ヨーロッパでは、新幹線と言っても在来線の拡大線上に建設された例がほとんどで、新幹線専用の路線はほとんどなく、在来線の車両も必要な区間で新幹線へと乗り入れます。また逆に、市街地などで用地買収が難しい区間などでは、新幹線車両が在来線に乗り入れれることも通常です。このため、深夜であっても新幹線を夜行列車や貨物列車が行き交うことは珍しいことではありません。

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