1982年3月 国鉄増収策として「青春のびのび18きっぷ」誕生
JR全線の普通列車が1日間乗り放題となる「青春18きっぷ」。ここでは今更説明するまでもないでしょう。発売額は12,050円で5回まで有効となっており、1回あたり2410円で長距離移動ができるお得な乗車券です。
青春18きっぷは、国鉄末期の1982年(昭和57年)3月、空気輸送同然で走っていたローカル線にせめて長期休暇中くらいは学生に乗ってもらおうと、国鉄全線の普通列車乗り放題となる「青春のびのび18きっぷ」として登場。当時は国鉄改革の真っただ中で、国鉄増収策の一つとして誕生しました。
当時の発売額は8,000円で、5回(5日間)有効のルールは変わりませんが、2日券×1枚+1日券×3枚の組み合わせとなっていました。この頃は夜行普通列車もたくさんあり、日付をまたいで乗り過ごす需要も多かったのでしょう。また、切り離して使えるので、2グループ以上で分け合うことも可能でした。
この頃と比べると、2022年現在はローカル線の整理も進み、新幹線の開業で在来線は切り刻まれ、夜行列車もなくなってしまい、残念ながら青春18きっぷも魅力半減といったところでしょうか。
青春18きっぷ 東京ー大阪 最速乗り継ぎパターンは?
さて、そんな「青春18きっぷ」ですが、乗り放題と聞けばやはり遠くへ行こうと思うもの。皆さん個性的なルートで長く遠く乗るルートを開拓されていると思います。
そんな中でも、やはり東京―大阪の移動は格別で、列車本数の多さやスピード、そして車両の快適性では他の路線の追従を許しません。
新幹線がある今日、東京―大阪は3時間を切るまでになっていますが、戦前は超特急『燕』が8時間で結んでおり、戦後も新幹線開業までは特急『こだま』が6時間30分で走破していました。そして2022年現在、普通列車ばかりを乗り継いで、果たしてどれだけの時間がかかるのでしょうか。
東京→大阪 青春18きっぷ最速乗り継ぎパターン
まずは東京を出発して大阪に向かう下りの乗り継ぎパターンです。
下り列車の最速乗り継ぎパターンは、東京を5:20に出発する8時間53分でした。
東京5:20→三島7:21 普通 沼津行き
三島7:29→静岡8:29 普通 静岡行き
静岡8:31→浜松9:41 普通 浜松行き
浜松9:43→大垣11:47 新快速 大垣行き
大垣12:12→米原12:46 普通 米原行き
米原12:50→大阪14:13 新快速 姫路行き
静岡と浜松での乗り継ぎが少し苦しいところですが、今では少なくなったJR東日本とJR東海を直通する電車が利用でき、さらに浜松から大垣までを1本の新快速で乗りとおせるおかげで、乗り換えも5回で済ますことができます。
ちなみに、次点は東京8:37→大阪17:42の所要時間9時間5分(乗り換え5回)、乗り継ぎ回数が最も少ないのは4回で、そのうち最速パターンは東京12:27→大阪21:42(熱海・浜松・大垣・米原で乗り換え)の所要時間9時間15分でした。
大阪→東京 青春18きっぷ最速乗り継ぎパターン
続いて、大阪を出発して東京に向かう上りの乗り継ぎパターンです。
上り列車の最速乗り継ぎパターンは、大阪を15:30に出発する8時間56分でした。
大阪15:30→米原16:54 新快速 敦賀行き
米原17:00→豊橋19:08 新快速 豊橋行き
豊橋19:11→浜松19:46 普通 浜松行き
浜松19:54→静岡21:06 普通 静岡行き
静岡21:14→熱海22:29 普通 熱海行き
熱海22:35→品川0:07 普通 品川行き
品川0:13→東京0:26 山手線内回り
東京都内への到着が深夜のため、東海道本線が品川止まりとなってしまい、山手線への乗り換えが必要です。品川‐東京の東海道本線の所要時間が7分であることを考えると12分のロスですが、米原―豊橋で乗り換えがない点などが作用して、これが最速となります。
青春18きっぷは原則として0時を過ぎて最初の停車駅までを1日としてカウントしますが、東京・大阪の電車特定区間内では最終電車まで有効という特例がありますので、東京駅まで1回分で無事到着することができます。
ちなみに、次点は大阪12:45→東京21:44の所要時間8時間59分(乗り換え6回)、 乗り継ぎ回数が最も少ないのは5回で、そのうち最速パターンは大阪10:30→東京19:38(米原・大垣・豊橋・浜松・熱海で乗り換え)で所要時間は9時間8分でした。
東京―大阪を青春18きっぷで所要時間を短く移動するコツは、なんといっても名古屋・大阪地区の速達列車を有効利用することです。実際紹介した速達パターンでも、日中に通過する名古屋地区はともかく、東京発・大阪発とも大阪―米原を新快速が走っている時間帯にを通過することがポイントです。
1934年超特急『燕』のダイヤと、2022年青春18きっぷ乗り継ぎパターンを比較すると
先ほど、戦前の超特急『燕』は、東京―大阪を8時間で結んだとお伝えしました。
このダイヤは1934年(昭和9年)に丹那トンネルが開通、東京―大阪の距離が556.4㎞と現在と同じ線路条件になってからの所要時間です。
1934年当時の『燕』のダイヤは以下の通りで、隣には2022年現在の青春18きっぷ乗り継ぎパターンのうち、出発時間が近いものを記載してみました。また、2022年ダイヤで到着・出発時間の記載のある駅は乗り換え駅となります。
1934年 『燕』 | 2022年 | 1934年 『燕』 | 2022年 | ||
東京 | 0900 | 0906 | 神戸 | 1220 | 1218 |
横浜 | 0926 0927 | 0934 | 三ノ宮 | 1226 | 1222 |
沼津 | 1055 1100 | 1110 1114 | 大阪 | 1255 1300 | 1245 |
静岡 | 1145 1148 | 1209 1221 | 京都 | 1334 1336 | 1315 |
名古屋 | 1417 1422 | 1515 | 大垣 | レ | 1505 1511 |
大垣 | 1458 | 1547 1609 | 名古屋 | 1541 1545 | 1546 |
京都 | 1626 | 1744 | 静岡 | 1815 1818 | 1836 |
大阪 | 1700 1702 | 1815 | 沼津 | 1903 1907 | 1932 |
三ノ宮 | 1733 | 1839 | 横浜 | 2034 2035 | 2118 |
神戸 | 1737 | 1842 | 東京 | 2100 | 2144 |
当時は東京ー沼津が電化されていたため、沼津は機関車交換(東京ー沼津がEF53、沼津ー大阪がC53)のため停車していました。大垣は上り勾配となる大阪行きのみ、関ケ原越えの補機連結のため停車していましたが、その停車時間はなんと30秒という早業でした(解結は走行中に行われました)。主要駅ではC53への給水が不可欠だったため、おおむね5分程度停車が必要でした。東京―大阪は556.4㎞なので、特急『燕』の表定速度は69.55㎞/hとなります。
現在の乗り継ぎパターンと比較してみると、上下とも『燕』のほうが1時間ほど所要時間は短くなっています。ただし、乗り換えにかかる時間もあるので、実際の所要時間差は30分くらいといったところでしょうか。主に熱海―豊橋や大垣―米原などの普通列車利用区間で差がつくものの、快速列車が主流の区間では、現在のほうが所要時間が短い区間も多くなっています。
速達化が進んだ現代から見れば、東京―大阪を青春18きっぷで移動するなどある意味狂気の沙汰かと思われますが、90年前には「超」がついていた特急列車と、普通列車がほとんど変わらないという状況になっています。