芸備線と木次線が交わる 備後落合駅
備後落合駅は、広島県庄原市、芸備線と木次線が交わる点にあります。
かつては中国山地を超えて山陽地方と山陰地方を行き来する人々の交通の要衝として、大きな賑わいを見せたという備後落合駅ですが、近年はその役割も小さくなり、乗降客も列車も激減、かつて駅前にあった商店や施設もほとんど全てがなくなりました。
近年は路線の存続そのものが取り沙汰されるようにもなり、いよいよ秘境駅としても有名になりつつある備後落合駅ですが、2022年の夏のある日、足を運んでみました。
備後落合駅で1日1回だけ見られる 3方向の列車が集結するターミナルらしい光景
国鉄時代には夜行を含めた急行『ちどり』などが発着した備後落合駅も、今や1日に数本の列車が発着するのみとなり、かつては賑やかであった駅前も、廃屋や廃車体が置かれているだけの、本当に何もないところになっています。
それでも、今も残る多くの側線や転車台、石炭庫の跡が、古い賑わいを彷彿させてくれます。
そんな中で、唯一乗換駅らしい光景が見られるのが、1日に1回だけとなった、3方向への同時接続の時間です。
2022年改正では、14時台に3方向から列車が到着、そして3方向へと発車します。
やがて発車時刻となり、各列車は備後落合始発として3方向へと出発していきました。
わずかな時間、わずかな人でしたが、山間部にひっそりとある駅が一瞬にぎわった瞬間でした。
かつては賑わいを見せた 備後落合駅の歴史
備後落合駅は、1935年(昭和10年)12月20日、現在の芸備線が延伸されたことにより開業しました。翌年には備後落合ー小奴可駅が開業して伯備線と接続する備中神代駅までがつながり、これにより広島―備中神代が開業し芸備線が全通しました。
さらに1937年(昭和12年)には、現在の木次線も備後落合駅へ到達し、3方向への路線が発着する乗換駅となりました。
芸備線と木次線のルートは広島―松江の最短ルートととなり、瀬戸内海地方と山陰地方を結ぶいわゆる陰陽連絡の主要路線として、多くの旅客が利用することとなりました。
また、芸備線の備後落合―備中神代や、それに続く伯備線の備中神代―新見には急勾配が連続し、それに備えて機関車を増結する必要がありました。その基地となる備後落合駅には機関区が置かれ、数多くの鉄道職員が勤務していました。敷地内には鉄道の施設の他、夜通し運行される夜行列車や貨物列車の運行に備えて職員の宿舎もあり、当時の備後落合駅の賑わいは相当のものだったようです。
しかし、戦後しばらくの間最短ルートとして重宝された木次線は、線路規格も低く速度も遅いため、道路整備が進むにしたがって、バスのほうが所要時間が短くなりました。山陽新幹線開業後は、新幹線と伯備線を経由したほうが早いという状況にもなり、陰陽連絡路線としての役割は次第に低下していくこととなります。
同時に貨物輸送も自動車輸送へと移り、さらに蒸気機関車が廃止されディーゼル化されると、合理化により職員も半減。通信の発達で遠隔操作が可能となったことに加え、乗客の激減で列車本数も減ったため、1997年改正でついに無人化されることとなりました。