輸送密度18人? 陰陽連絡使命を終え廃線危機の木次線
木次線は、山陰本線と接続する宍道駅から、芸備線と接続する備後落合駅を結ぶ、81.9㎞の路線です。
かつては急行『ちどり』などが走り、山陽と山陰を結ぶいわゆる陰陽連絡線の一つとしてにぎわった時期もありました。しかし線路規格の低さやスイッチバックの存在により高速化に適さず、その後道路整備が進むにつれて旅客は自動車へ移り、現在では陰陽連絡線としての役割はほぼなくなりました。
加えて、もともと山間部を走るうえに過疎化も進み、利用客は減少する一方で、国鉄末期でさえ輸送密度は663人。当時から廃線が取り沙汰されていましたが、代替道路が未整備という理由で、特定地方交通線への選定は免れていました。
しかし、道路整備が進んだ今、具体的な廃線の話題は出ていませんが、木次線の存続に黄色信号がともっていることは事実です。2019年の輸送密度は、全線通しで190人。出雲横田―備後落合に限れば、2020年度はコロナ禍にあるとはいえ18人という少なさで、いつ廃線となってもおかしくはない状況です。
さらに、長年木次線の観光列車として人気を集めていた『奥出雲おろち号』が、車両の老朽化を理由に2023年度をもって引退することが発表されています。年間で万単位の集客力を誇っていただけに、引退後は廃線議論が加速するのではないかと危惧する声があがっています。
2022年夏のある日、そんないつ廃線となってもおかしくない木次線を訪れました(同日に訪れた備後落合駅の様子の記事も書いています。「かつての賑わいの跡が残る備後落合駅 1日に1回だけ3列車の集まる瞬間」もよろしければご覧ください)。
JR西日本唯一 3段式スイッチバックの出雲坂根駅
今回ご紹介するのは、木次線の中でも最大のハイライトである、出雲坂根駅とその周辺です。
出雲坂根駅の標高は564mに対し、次の三井野原駅は727m。6.4㎞の駅間で163mも上ることになり、当然通常の路線では不可能なため、開業当初からスイッチバック方式が採用されています。3段のスイッチバックは、JR西日本としては唯一の存在で、古くから撮影名所として多くの鉄道ファンが訪れているところです。
出雲坂根駅は2面2線の線路配置で、上下列車が交換可能な構造ですが、木次線の中でも出雲横田―備後落合は特に本数が少ないため、定期列車だけではこの設備が活かされることはありません。上下線に列車が並ぶのは、『奥出雲おろち号』が運転される日だけのイベントです。
国道314号 通称「奥出雲おろちループ」付近から木次線を見る
次いで、出雲坂根駅から移動し、通称「奥出雲おろちループ」付近からの木次線をご紹介します。
この付近は標高差が大きく、木次線はスイッチバックでなんとか山越えをしていますが、それは道路も同じ事で、かつては通行の難所でした。
1992年にこの標高差を駆け降りるループ橋が完成、ループ頂上付近にある道の駅から山肌を進む木次線を望むことができます。
この区間は、保守作業の省力化のため最高速度が25㎞/hに制限されているところがあり、列車は極めてゆっくりと通り過ぎます。列車が見える区間はそう長くはありませんが、シャッターチャンスはかなり期待できます。ただ、線路の周囲の木々が伸び放題のため、うまく列車全体が見える瞬間はそれほどありません。
夏の一日でしたが、標高が500m~700mということもあり、比較的過ごしやすい場所でした。