水没した北陸新幹線E7系、W7系 廃車か修理か 水につかった電車って使えるの?

(11月7日追記)この記事は10月16日に執筆したものです。こちらに続報を掲載しています。

 

先日の台風19号で、長野県にある北陸新幹線の車両基地が水没しました。泥水の中に整然と並んでいる新幹線の姿は繰り返し報道されたので、ご覧になったかと思います。10月16日現在、ようやく水もほぼ引いて復旧へ向けての調査が始まったそうですが、車両基地ごと水没しており、見通しが立つのはまだ先のようです。

報道などでは、廃車か修理か、いろいろな説を立てて解説されていますが、実際のところどうなるのかはわかりません。キーポイントになるのは、車齢、製造価格の2つでしょう。

 

現代の鉄道は、思いのほか電気に依存しています。電化されている新幹線はもちろん架線から取り入れた電気でモーターを回して走ります。車内灯や空調などもすべて電気です。これらを制御する装置もまた電気で動きますし、車体各所に取り付けられたセンサーも電気信号です。線路にも電気信号が流れ、列車の現在位置を把握したり列車が衝突しないよう監視したりできる仕組みになっています。

これら電気製品は大変水に弱く、もちろん雨や雪程度には耐えられるように作られていますが、丸ごと水につかるようなことは想定されていません。

特に、新しい車両ほど精密で水に弱い機器を搭載している傾向にあります。半導体を用いた基盤や液晶パネル、LCDなどは、一度水につかると使い物にならないでしょう。まして、ただの水ではなく泥水です。首尾よく乾かしたとしても、精密機器の大敵であるホコリが舞い上がる恐れがあります。床下の水につかった電装品類は、残念ながら破棄せざるを得ないでしょう。

 

しかし、車体本体は乾かせば使えるはずです。自動車と違い、鉄道の電装品や機器類は基本的に取り外せるようになっているはずです。もちろん、濡れた内装は交換するなり、別に乾かす必要があります。なお、一部に浮いていたという報道もありますが、気密性の高い新幹線は水の侵入を食い止めていた可能性は十分にあります。

最も高価な電装品類は諦めても、車体だけでも再利用できれば、かなりの費用を節約できることになります。

 

鉄道車両が車両基地で水没したものとしては、1982年(昭和57年)8月3日に関西地方に上陸した台風10号による大雨の例があります。付近を流れる葛下川の氾濫により、奈良県王寺町にある王寺駅が冠水、留置線で夜を明かしていた101系60両、113系40両の合計100両という大量の車両が床上浸水となりました。

 

まだ車齢の浅かった113系は全車両復旧されましたが、すでに置き換え淘汰の対象になっていた101系は54両がそのまま廃車、不足する車両を補うため、同様に廃車対象であった関東地区の101系を移籍させ急場をしのぎました。

 

E7系、W7系は車齢が6年程度、新幹線車両の寿命を15年と考えると、まだ半分以上耐用年数が残されています。また、製造費も1編成あたり32億円と高価で、鉄道車両の減価償却期間(会社の帳簿上の支払期間)が13年でまだ支払いが残っていることを考えると、このまま全車廃車ということは考えにくく、先の113系同様全車両の復旧を目指すのではないでしょうか。

 

従って、個人的な予想としては、一部状態の悪い車両は廃車の可能性がありますが、ほとんどは電装品や機器類を新調して使用されるのではないか、と考えています。

 

また、北陸新幹線はほかの新幹線にない特徴があり、車両の融通が利きません。その特徴とは、電源の周波数です。

商用電源は、東日本が50Hz、西日本が60Hzということはご存じかと思います(最近はインバーターの普及で意識することは少なくなりました)。東北・上越・北海道新幹線は全域が東日本50Hz地域を走り、東海道・山陽新幹線は、大部分が西日本60Hz地域を走るため、東京都・神奈川県・静岡県東部の50Hz地域では地上で60Hzに変換し、全線で60Hzを使用しています。

しかし、北陸新幹線は東京駅を出発すると、東京都・埼玉県・群馬県が50Hz、長野県が60Hzで、新潟県で再び50Hzとなり、富山県・石川県はまた60Hzと、区間により異なる周波数帯を通過するため、車両に周波数自動切り替え装置を備えています。

 

新たに新車を作るとなると、年単位の時間が必要です。車体だけでも再利用できれば、1両3億円の建造費よりかなり安上がりに仕上がるはずです。車両の代えが利かない以上、今ある車両をできるだけ修理して使うと考えるのが自然ではないでしょうか。

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