鉄道における建築限界とは? どうやって測定? 鉄道総研が新装置も開発

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鉄道総研が新たな建築限界測定システム「建築限界支障判定装置」を開発

鉄道総研(鉄道総合技術研究所)は、線路の建築限界内に支障物がないかを測定するために「建築限界支障判定装置」を開発したと発表しました。これまで建築限界測定には専用の車両を使用する必要があり、使用頻度は低いものの導入コストが高いことから、建築限界測定車を所有しているのはJR旅客会社に限られていました。

新たに開発されたシステムは、既存の車両に取り付けることができるもので、80㎞/hで走行しながらレーザー測定できるセンサーを搭載し、従来は夜間などに低速で行われていた作業も、営業列車の合間を縫って昼夜を問わずに行うことができるようになります。

このシステムは、2021年4月からJR九州の軌道検測車マヤ34に搭載されて運用され、既にデータの蓄積が行われているということです。また、担当者が現地で手検測により建築限界支障の確認を行っていた対象設備のうち75%程度が、この建築限界支障判定装置により設置位置が問題ないことを確認できるようになるということで、作業の省力化や迅速化も期待されています。

鉄道総研が開発した建築限界師匠判定装置を装備したマヤ34
マヤ34に取り付けられた建建築限界支障判定装置 マヤ34は本来は軌道のゆがみを検測する車両だが、後付けのこの装置を取り付けることで建築限界測定車両としても使用できるようになる 鉄道総研 ニュースリリースより

鉄道における建築限界とは?

鉄道における建築限界とは、車両が通過するにあたって支障する範囲内のことを指し、この範囲内には原則として建築物をはじめあらゆる障害物がないようにしなければなりません。

これにはトンネルや鉄橋、ホーム、架線柱といった鉄道に関連する施設も含まれ、当然のことながらこれらの構造物は建築限界の外に設置されることになります。

建築限界の大きさは、おおむね線路中心から左右両側2m、高さは電化区間なら6m、非電化区間なら4.5mとされていますが、建設時期や事業者、走行する車体の大きさ、直線・曲線や踏切など線路条件によって異なり、例えばかつての中央本線の高尾以西や予讃線では、断面の小さなトンネルがあるため「低屋根」と呼ばれる構造の車両しか入線することはできませんでした(その後小型パンタグラフの開発で、中央本線など一部では制限がなくなっていますが、予讃線では入線制限が残っています)。

トンネル断面の小さい中央本線笹子トンネルの通過対策として、車両高さを下げるために低屋根構造を採用した115系800番台 パンダグラフを折りたたんだ状態で通過すると、トンネルの建築限界に抵触するため、パンタグラフ部分が一段低い屋根となっている 115系だけでなく、101系や165系でも800番台は低屋根車となっていたが、1981年に身延線へ投入された低屋根構造の115系は2600番台となり、113系800番台は福知山線電化用の番台区分となったが低屋根構造ではない E231系も800番台は地下鉄千代田線乗り入れ対応として区分されている ちなみにパンタグラフの小型化でE231系、E233系は全車両が笹子トンネルを通過できる Wikipediaより

また、高速走行する新幹線は、車体が大型なこともあり建築限界も広くとられており、線路中心から左右両側へ2.2m、高さ7.7mとなっています。

似たような言葉に車両限界というものがあります。これは、車体の大きさの限界範囲のことで、周囲の建造物に接触しないよう、当然建築限界の範囲内に収められています。

建築限界 どうやって測定する? 建築限界測定車オヤ31形の登場

新たに線路が設置された場合や、電化や駅の設置で構造物が追加された場合などは、計算上問題がなくても実際に建築限界に抵触しないかどうか、あるいは設計図面通りの場所に設置されているかを調べる必要があります。

古くは実物大の模型や、実物の車両に限界となる大きさの外箱を取り付けて実際に走行させ、接触しないかどうかを調べていましたが、後に建築限界測定車と呼ばれる専門の車両が登場しました。

これが、スハ32系客車を改造したオヤ31と呼ばれる車両で、1949年~1961年に7両が製造されました。

測定時には、車体に取り付けられた矢羽根を展開し、建築限界内にある障害物に触れると矢羽根が倒れる仕組みです。この場合、矢羽根が倒れたことは電気信号として車内の装置に伝えられ、表示器が点灯します。

この羽を広げてゆっくり走行する様子が、かつて吉原遊郭の花魁がかんざしを挿して歩く様子に見えるということで、「おいらん」というニックネームがつけられました。

矢羽根を広げて建築限界の測定を行うオヤ31 かんざしを指して歩く花魁に似ているということで、おいらん車というニックネームが付いた 矢羽根が障害物に触れると倒れ、それが車内の装置へ伝達されるという簡単な仕組み カーブに差し掛かると車体がせり出して正確な検測ができなくなるため、写真のオヤ31-31と32は前後2か所、それ以外は3か所にに矢羽根を装備している Wikipediaより
佐久間レールパークに保存されていた、オヤ31 12の車内 矢羽根は車内のピンに電気的につながっており、万が一障害物に触れると矢羽根が倒れるだけでなく該当の矢羽根を示す個所にランプがつく なお、この車両はレールパークの閉館により現在はリニア鉄道館に展示されている Wikipediaより

しかし、オヤ31形客車はもとは戦前製のスハ32系客車をベースに改造したもので、車齢も高く機材も老朽化が進んでいたことから、7両のうち2両はJRに引き継がれることなく廃車されました。残った5両も順次廃車が進み、2021年10月現在車籍を有するのは、JR西日本のオヤ31-31のみとなっています。

このオヤ31-31は1937年にスハフ34525として製造され、戦後はGHQへ接収されるなどの経歴を持ち1956年にオヤ31へ改造されました。改造から65年、製造から84年がたっていますが、建築限界検測は大変重要な役割であることから、長期にわたって使用が続いています。

JR東日本では建築限界測定にレーザー検測タイプの車両を使用

JR東日本では、オヤ31の後継車両として50系客車を改造したスヤ50を1995年から運用しています。

物理的に矢羽根を接触させるオヤ31形とは違い、投射した光をCCDカメラにより撮影して解析する装置を搭載、「光おいらん」というニックネームがついています。そのため、車体には矢羽根の代わりに様々な方向を向いたカメラを搭載する独特のスタイルが特徴です。また、最高速度95㎞/hで検測することができ、作業の省力化に貢献しています。

2003年には、軌道・電気検測車として製造されたE491系(East i-E)やキヤE193系(East i-D)と仕様を合わせるための併結改造を受け、重量が増加したためマヤ50に形式変更されています。

JR東日本マヤ50-5001
JR東日本のEast iシリーズと仕様を合わせたマヤ50-5001 2021年現在1両のみが在籍している 後継車の登場により、JR東日本のオヤ31-13は2010年に廃車となった Wikipediaより

建築限界に誤り? JR九州の『ななつ星』が架線柱に接触

こうして線路上に障害物がないよう、入念なチェックが行われているはずですが、近年JR九州の『ななつ星』が線路わきの架線柱に接触、車体を損傷する事故が発生しました。

これは、2013年10月15日の運行開始を前に9月中に試運転を行った際の出来事で、9月16日~30日に行った試運転の際に客車3両に10~15mに及ぶ擦り傷がついていたことから発覚しました。

調査の結果、長崎本線肥前麓駅にあった架線柱に接触したことが分かり、既定の位置よりも架線柱が30㎝線路側に設置されていたことが原因でした。JR九州ではさらに調査したところ、全社で74か所で建築限界の規定に抵触していたことがわかり、9月30日には鹿児島本線で別の車両が架線を支える重りに接触する事故が起きていました。

九州内は国鉄時代の1960年代から順次電化が進められており、建築限界の確認などはその時に行われていたはずですが、その後点検の義務などはなく、結果として放置されていました。『ななつ星』の車両は24系寝台車と比べても全幅がやや大きく、そのために接触したものと思われます。

なお、接触の恐れのある個所では、架線柱を移動させたり、部品を小型化したりする工事を行ったほか、残りの個所については接触の恐れがないということです。

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