輸送密度1000人未満のローカル線の将来について 国が協議会の設置を提言
赤字が続く地方鉄道の在り方について検討を続けてきた国土交通省の検討委員会は2022年7月25日、輸送密度1000人を一つの目安とし、これに満たない路線については、路線の存続やバス転換を含め、国が中心となって沿線自治体や事業者と検討会を立ち上げ協議を進めるべきという提言をまとめました。
いわゆるローカル線の扱いをめぐっては、2016年にJR北海道が3路線3区間について「単独では維持困難」として公表したことを皮切りに、JR西日本が2022年4月に「維持困難路線」として17路線30区間を公表、沿線自治体との協議を持ちたいとしています。
さらにJR東日本も、コロナ禍前となる2019年において輸送密度が2000人に満たない35線区66区間を、「ご利用の少ない路線」として2022年7月28日に公表しています。
国の提言とJRの公表データでは完全に一致しない部分もありますが、これまで先送りされてきたローカル線の整理が一気に進む可能性もあります。
輸送密度1000人未満 対象となる路線はどこ?
国の提言によれば、今回協議の対象となる路線は輸送密度1000人未満のJRが運営する路線で、JRの公表しているデータをもとにすると、以下の路線・区間が対象になると見られています。
JR北海道の輸送密度1000人未満の路線・区間
- 留萌本線 深川―留萌
- 根室本線 釧路―根室、滝川―富良野
- 宗谷本線 名寄―稚内
- 釧網本線 東釧路―網走
- 室蘭本線 沼ノ端―岩見沢
- 日高本線 苫小牧―鵡川
- 函館本線 長万部―小樽
- 石北本線 上川―網走
JR東日本の輸送密度1000人未満の路線・区間
- 八戸線 鮫―久慈
- 津軽線 青森―三厩
- 大湊線 野辺地―大湊
- 山田線 盛岡―宮古
- 釜石線 花巻―釜石
- 北上線 北上―横手
- 大船渡線 一ノ関―気仙沼
- 花輪線 好摩―大舘
- 五能線 東能代―五所川原
- 陸羽東線 古川―新庄
- 気仙沼線 前谷地―柳津
- 左沢線 寒河江―左沢
- 奥羽本線 新庄―湯沢
- 羽越本線 酒田―羽後本荘
- 陸羽西線 新庄―餘目
- 米坂線 米沢―坂町
- 越後線 柏崎―吉田
- 上越線 越後温泉―ガーラ湯沢
- 弥彦線 弥彦―吉田
- 磐越西線 喜多方―五泉
- 磐越東線 いわき―小野新町
- 只見線 会津坂下―小出
JR東海の輸送密度1000人未満の路線・区間
- 名松線 松坂―伊勢奥津
※JR東海は路線ごとの輸送密度を公表していませんが、名松線が対象となるようです
JR西日本の輸送密度1000人未満の路線・区間
- 山陰本線 城崎温泉―鳥取 益田―小串、長門市―仙崎
- 加古川線 西脇市―谷川
- 姫新線 播磨新宮―新見
- 芸備線 備中神代ー下深川
- 福塩線 府中―塩町
- 因美線 東津山―智頭
- 木次線 宍道―備後落合
- 山口線 宮野―益田
- 小野田線 小野田―居能、雀田―長門本山
- 美祢線 厚狭―長門市
JR四国の輸送密度1000人未満の路線・区間
- 予讃線 向井原―伊予大洲
- 牟岐線 阿南―阿南海岸
- 予土線 北宇和島―若井
JR九州の輸送密度1000人未満の路線・区間
- 日豊本線 佐伯―延岡
- 筑肥線 伊万里―唐津
- 筑豊本線 桂川ー原田
- 豊肥本線 宮地―三重町
- 肥薩線 八代―隼人
- 吉都線 吉松―都城
- 指宿枕崎線 指宿―枕崎
根室本線の一部や、留萌本線、函館本線のようにすでに廃止で決着している路線もありますが、日本の鉄道ネットワークの一端を担う本線級の路線や、県庁所在都市駅を含むという大変厳しい内容となっています。
ローカル線 協議が始まるとどうなる?
さて、この協議が始まるとどうなるのでしょうか?
提言では、輸送密度1,000人未満の路線を対象に「特定線区再構築協議会(仮称)」を設置して3年以内に存続について結論を出すとしており、バス転換を含めて将来にむかって地域交通の在り方を検討するとしています。ただ、廃線ありきではなく、「JR各社が引き続き現に営業する路線の適切な維持に努めるべき」とし、「単に不採算であることや一定の輸送密度を下回っていることのみで、路線の存廃を決定すべきではない」としています。一方で、「国鉄改革後35年という年月を経て、ローカル鉄道を取り巻く環境が劇的に変化」したことを踏まえ、「その在り方について検討していくべき」とも明記されています。要はバス転換のほうが適当と見とれられる場合には、この際バス転換して利便性を高めるようにして、鉄道としての存続させる意義が認められる場合は、地元にも費用負担を求めながら輸送改善など取り組む、という二者択一が迫られる内容とも考えられます。
赤字ローカル線の問題は今に始まったわけではなく、古くは1968年(昭和43年)の赤字83線の選定にもみられるように、すでに1960年代の終わりには、将来的には経営に行き詰まる路線があることが認識されていました。しかし存続問題となると、廃線や費用負担が話題となるため、沿線自治体はあえてこの話題を避けてきた歴史があります。ローカル線の運営は事業者に丸投げされたため、事業者は経費削減のため止むを得ず減便やサービスダウンを行い、これがさらに利用者を減少させるという悪循環に陥りました。
こうして問題が先送りされている間にも、ローカル線の経営環境は年を追うごとに厳しさを増し、さらに追い打ちをかけたのがこのコロナ禍でした。このまま問題を先を繰りすれば、地域の交通が破綻してしまう恐れがあるため、新たに国が主導することで今後のローカル線の在り方についての協議の場を作ろう、というのが今回の提言です。
そもそも輸送密度って何? どうやって計算するの?
輸送密度とは、言い方を変えれば「1㎞当たりの平均通過人員」となります。しばしば輸送人員そのものと混同されますが、輸送密度1000人というのは利用客が1000人というわけではありません。
ではどうやって計算するかというと、以下のような計算式が用いられます。
- 輸送密度の計算式
- 総輸送人キロ ÷ 営業キロ (㎞)
また、輸送人キロとは、輸送人員数に輸送距離をかけたもので、総輸送人キロはそれらをすべて足したものになります。
例えば、路線長10kmの路線で、利用客が1000人あったと仮定し、その利用客全員が始発駅から終点までの10㎞を乗車したとすると、輸送密度は上の式を当てはめて
- {1000人(輸送人員) × 10km(輸送キロ)} ÷ 10㎞(営業キロ) = 1000人(輸送密度)
となり、輸送密度は1000人となります。
一方、同じ路線で10㎞乗車した乗客が500名、5㎞乗車した乗客が500名だった場合、
- 10㎞乗車した客の輸送人キロは 500人 × 10㎞ = 5000人キロ
- 5㎞乗車した客の輸送人キロは 500人 × 5㎞ = 2500人キロ
- 総輸送人キロは7500となるので、これを営業距離(10㎞)で割ると
- 7500 ÷ 10 = 750
となり、輸送密度は750人となります。
輸送人キロは外部から計算したり推測したりすることは不可能なので、鉄道会社が公表するデータを使用する必要があります。