札幌市電の軌道上に駐車車両 最大で12分の遅れ
2022年6月12日17時過ぎ、札幌市電の西4丁目―狸小路の軌道上に乗用車が駐車し、市電の運行が一時ストップする事態が発生しました。
現場はサイドリザベーションと呼ばれる道路の最も歩道よりに軌道が敷かれている区間で、これにより市電が立ち往生している様子がSNSで拡散され話題となりました。
運転士が警察に通報しましたが、警察の到着前に車の運転手が車へ戻ってきたため、職員からの厳重注意の上、車を移動させたということです。
札幌市電の運行を委託されている札幌市交通事業振興公社では、「長時間の停車を余儀なくされると賠償責任を問う可能性がある」としているものの、今回のケースでは損害賠償は行わないとしています。
しかし、同じ札幌市電でも、2016年には軌道上に駐車して約10分間市電の運行を妨害した後に立ち去った運転手に対して、防犯カメラの映像などを根拠に北海道警が駐車違反切符を交付していたことや、20分にわたり軌道上で立ちふさがり市電の運行を妨害した男が威力営業妨害で逮捕された例もあり、今回の処遇は甘いのではないかという声も上がっています。
道路を走る路面電車 交通ルールを紹介します
路面電車は、その名の通り原則として道路上を走る乗り物です。そのため、電車としての運行規則の他に、その他の交通と危険が生じないように、一般の交通ルールにも従う必要があります。
また、ルールがあるのは路面電車の側だけでなく、自動車などの車両が路面電車に対して守るべき規則も存在します。
鉄道事業法に定められる普通鉄道とは違い、路面電車は軌道法という法律に定められています。これは、鉄道が旧鉄道省や旧運輸省といった交通専門の役所に管理されていたのに対し、路面電車は道路交通の一部として旧建設省によって管理されていたという側面があります(2001年の省庁再編に伴い、これらはすべて国土交通省の管理となりました)。このため、その扱いも普通の鉄道とは異なる部分も多くあります。
軌道上への駐車などは論外ですが、そんな路面電車にまつわるルールについて紹介します。
路面電車の線路内は通行してもいいの?
道路上に設けられた路面電車の線路 (軌道敷内) の上を、自動車が走ってもいいのでしょうか?
軌道法では、路面電車の軌道は原則として道路上に敷設しなければならず、このため線路を自動車やそのほかの交通と共用することとなります。
ちなみに普通鉄道の場合は逆で、止むを得ない場合を除き道路上に線路を設置することはできません。
道路交通法によれば、軌道敷内の通行について、「車両は右左折や横断、転回、危険を避けるため止むを得ない場合(障害物を避けるなど)を除き、軌道敷内を通行してはいけない」と定められています。
ただし、以下の場合においては、車両は軌道敷内を通行できます。
- トロリーバスの場合(トロリーバスは法律上電車とみなされるため、線路の通行に支障がない)
- 車両の幅が道路の通行可能幅よりも広く、軌道敷にはみ出さないと通行できない場合
- 道路に損傷がある場合や、工事中の場合などで軌道敷にはみ出さないと通行できない場合
- 線路内通行可の標識がある場合
4の場合、補助標識で通行できる車種が限られる場合もあります(例えば補助標識に自動車とあれば、四輪自動車と自動二輪車は通行できますが原付、自転車は通行できません)。
軌道敷内の通行が認められているケースでも、後方から路面電車が接近してきた場合は、速やかに軌道敷から出るか、路面電車と距離をとってその通行を妨げてはなりません。
また、規制対象が車両となっていることから、自転車についても先に紹介した4つに該当する場合を除いて軌道敷内を走行することはできません。
ちなみに、軌道敷内とはレールから外側へ610mmまでの範囲を指し、この部分の舗装の維持などは路面電車事業者の負担となります(原則そうなっていますが、路面電車以外の通行が認められる場合や緑化事業などが行われるような場合は特例もあります)。
路面電車の信号はどんなルールがある?
普通鉄道の場合、信号で区切られた区間を1区間とし、この区間には1列車しか入らないことを原則として、列車同士の追突や衝突が起こらないようにする閉塞方式がとられています。
路面電車の場合、複線であれば閉塞区間は必要なく、運転士は目視で安全を確認しながら進行することができます。従って、路面電車には鉄道信号は必要ありません。ただし単線の場合は、正面衝突を避けるため閉塞方式がとられるほか、道路ではなく専用軌道(法律用語では新設軌道)の場合は、鉄道同様の閉塞方式がとられる場合もあります。
路面電車の特殊な例としては、続行運転が挙げられます。単線区間では列車の増発に限界があるため、連続した2列車を1列車とみなす運転方式です。事業者によって異なりますが、最後尾以外の車両には続行運転をしている標識が取り付けられます。
また、道路上を走る路面電車は、当然鉄道信号のほかに交通信号にも従う必要があります。大部分は自動車などその他の交通と同じですが、中には路面電車専用の信号も存在します。
黄色の矢印灯火は、路面電車専用の進行表示で、信号機が赤の場合でも、路面電車は矢印の方向へのみ進むことができます。また、赤の×印は路面電車専用の停止表示で、信号機が青の場合でも路面電車が進行することはできません。
路面電車用の矢印灯火の出現は古く、1934年(昭和9年)の現東京都王寺駅前といわれています。ここは複雑な交差点で2名の警察官による手信号が行われていましたが、連携のミスにより度々混乱が起こっていたため、道路交通と路面電車を分離して制御するため矢印灯火が導入されました。
戦前・戦中には交通信号が設置されていたのは大都市を抱える8都府県だけだったものの、戦後は交通量の増大で全国に信号機が拡大。当初は地域により異なる矢印灯火が採用されていたそうですが、1966年(昭和41年)に現在みられる形に統一されました。
自動車と路面電車 どちらが道路上では優先?
路面電車は自動車よりも重量があり、停止するために必要な距離も、自動車よりはるかに長くなります。また、線路の上を走行しているため、障害物をよけて走行することができません。さらに、不特定多数の旅客が乗車し、立ち客もいるため急ブレーキは車内事故を発生させる恐れがあります。
このため、道路上においては路面電車の通行は基本的に優先となります。信号機のない交差点や、右左折で自動車が線路を横切る際も、基本的には路面電車が優先となります。
これは、信号機や踏切で制御されていない地点で路面電車が道路上から道路外へ出る場合も同じで、自動車は路面電車の通行を妨げてはなりません。
路面電車の走る道路に対して優先道路(標識で優先道路が明示してある場合や、明らかに道幅が広いほうの道路)を通行している場合は、優先道路側の自動車が優先となりますが、通常路面電車が走るのは大通りであることが多く、このケースは少ないものと思われます。また、路面電車が右折する際は、直進車が優先となります。
信号機がなく、道幅もほぼ同じで優先道路の標識もない交差点を路面電車同士が交差する場合、左から来る路面電車が優先となります。
なお、路面電車が優先となるのは車両(原付や自転車を含む)に対してであり、信号機のない横断歩道を歩行者が横断する場合や、路面電車が右左折で横断歩道を横切る際は歩行者が優先となります。
路面電車の最高速度のルールは? スピード違反にはなるの?
道路を走る路面電車には、最高速度にもルールがあります。
路面電車は、軌道法に基づく軌道運転規則により、最高速度は40㎞/hと規定されています。また、道路標識により最高速度が40km/h未満に指定されている場合は、これに従う必要があります。
この速度を超えた場合は、当然交通違反として取り締まりの対象となりますが、停留所の間隔が近く交通信号にも従わなければならない路面電車では、現実問題として速度超過はあまり考えられません。
事業者や路線によっては、道路幅やカーブなどで独自のルールを設けているところもあります。
なお、路面区間以外の新設軌道の場合は、事業者によりルールが異なります。
路面電車の停留所にまつわるルール
路面電車では、旅客が乗降する場所として停留所が設けられており、多くの場合停留所は道路上に設けられています。
路面電車に乗降する停留所は、通常は道路上に小さなホームが設けられることが多く、法律上は安全地帯と呼ばれ、青地にVの白抜きの道路標識で表されます。乗降客の多い停留所の場合は、比較的大きな設備であることもあり、上屋が設置されているものや地下道に直結している場合もあります。
また、道路幅が狭くプラットホームが設置できない場合は、黄色の太線(さらに内側を白線で囲う場合も)で該当箇所を囲った道路標示で、安全地帯を表示することもあります。安全地帯は乗降客の安全を確保するための区画なので、車両が進入することはできません。
また、安全地帯も設置されず、停留所であることを示す路面標示のみの場合もあります。安全地帯とよく似ていますが、単なる案内表示なので、法的な意味はありません。
安全地帯が設置されている場合は、乗降客の有無にかかわらず、安全地帯横を通り抜ける車両は徐行して通過しなければなりません。
安全地帯がない場合で、路面電車が乗降中である場合、後方から接近した車両は、乗客が乗降を終え道路の横断が完了するまで停止しなければなりません。ただし、乗降客がおらず電車との間に1.5m以上間隔が取れる場合は、車両は徐行して進むことができます。
日本では路面電車自体が珍しい存在となり、ほとんどのドライバーは日常的に意識することも少ないと思いますが、路面電車だけでなく車両(自転車を含む)にも厳格にルールが定められています。交通ルールを守り、事故のないようみんなで気を付けましょう。