500系 6編成のうち4編成が用途廃止へ N700S系増備で余剰のN700系で置き換え
JR西日本は2024年2月14日、山陽新幹線で運用中の500系8両編成6本のうち、4本が2026年度末までにN700系に置き換えれれて運用から外れることを発表しました。
これは、同日付の2024年2月社長会のうち、「山陽新幹線の安全性・快適性の向上」で述べられたもので、発表によれば、2024年度から2026年度にかけてN700S系16両編成を4編成投入し、これにより余剰となるN700系4編成を、博多総合車両所で改良工事の上8両編成化。これにより既存の500系のうち4編成の置き換えが行われるということです。
N700系は、2011年の九州新幹線開業時に投入された7000番台、8000番台が8両編成で運用されていますが、東海道・山陽新幹線用として使用される16両編成として製造されたグループとしては、初の8両編成の誕生となります。
また、500系は残存する6編成のうち、2026年度までに4編成が用途廃止とされています。これが直ちに廃車となることを意味するのかは分かりませんが、同時期までに稼働編成が2編成となる見込みで、いよいよ引退の時期が近づくこととなります。
8両編成化のN700系 改良点はどこ?
JR西日本の発表によれば、N700系16両編成の8両編成化に当たっては、以下の改良工事が施されます。
- 地震時のブレーキ距離短縮
- 状態監視機能の強化
- 車いすスペースを4席設置
- 窓側席のコンセント設置
など、N700S系に近い性能と接客設備になる見込みです。
具体的には、ATCとブレーキシステムを改良し、地震発生時の停止までの距離が従来のN700Aから5%短縮されます。また、大容量のデータ通信を可能とし、これにより車両の状態監視機能を強化。パンタグラフやブレーキ装置などの消耗品についても長寿命化を目指し、メンテナンスにかかるコストが削減される予定です。また、従来編成に1席だった車いすスペースを4席に増加させます。
8両編成化されるN700系は主に『こだま』として使用される予定で、8両編成を新造した場合に比べ50億円以上の経費削減になるということです。
JR西日本によれば、N700系は本来16両編成で運転されることを前提としたシステムとなっていて、現在のN700S系のように短縮化は想定されていないことから、改造は「かなり大掛かりなもの」であるということです。
また、外装についてはそのまま使用される見込みで、さらにグリーン車3両は4列座席の普通車化の上で8両編成に組み込む方向で検討されているということです。また、それ以外の余剰となる車両については言及がありませんが、JR東海ではN700S系の増備によりN700系の廃車が進行している状況から考えると、廃車の可能性が高そうです。
500系新幹線とは? 国内初の最高速度300㎞/h
500系新幹線は、1997年のダイヤ改正で山陽新幹線に投入された車両で、日本の新幹線としては初めて最高速度を300㎞/hに向上させた車両です。500系の営業開始により、1981年(昭和56年)にフランスのTGVに世界最速の座を奪われて以来、16年ぶりにTGVに当時の最高速度で並び、再び日本の新幹線が世界最速となりました。また、新大阪―博多の始終着駅間表定速度の242.5㎞/h、隣接する2停車駅間(広島ー小倉)での表定速度261.8km/hは、いずれも世界最速としてギネス認定されました。
300㎞/h運転を実現するため、500系では0系以来の全車電動車方式を採用。これにより300系に比べて1.5倍の出力となり、加速力に重点を置いた後のN700S系に匹敵する出力となっています。なお、500系、N700S系とも300㎞/hに到達するまでには約4分程度とされており、世界の中でも群を抜いた加速力を誇ります。また、最高速度、出力、加速力とも単純な数値ではN700S系も同等の性能、あるいは最高速度ではH5系のほうが優れていますが、14M2TのN700S系、8M2TのH5系に対し、16Mの500系は勾配に強い分速度種別では上回っており、新幹線史上最高の性能を持つといっても過言ではありません。
500系の車体は320㎞/h運転に耐えられるよう設計され、特に先頭車は全長27mのうち半分以上の15mに及ぶ流線形が特徴で、このため在来車に比べ、先頭部分の座席は2+2列になっていることや、運転席寄りに乗降扉がないなどの違いがあります。また、300系と同等の高さを確保しつつ、空気抵抗削減のため全体的に丸い断面をしており、他の新幹線とは一線を画したスタイルを持っています。
こうした特徴のため、鉄道ファンのみならず特に小さな子供などからの人気は絶大で、現在まで長きにわたりJR西日本を代表する車両となっています。
なお、本来は320㎞/hでの営業運転に当たり性能や環境面での問題はないとされましたが、1995年の阪神大震災をきっかけに非常制動距離を短縮する必要が生じたことから、営業運転は300㎞/hとされました。
山陽新幹線 所要時間と500系運用の変遷
1975年(昭和50年)の山陽新幹線全通時には3時間44分(最速の場合、以下同じ)を要していた新大阪―博多は、1986年(昭和61年)11月改正で最高速度が220㎞/hとなって2時間59分と初めて2時間台となり、1989年3月改正では100系V編成『グランドひかり』投入で最高速度が230㎞/hとなったことで2時間49分となりました。
1993年3月改正では、300系『のぞみ』が山陽新幹線でも運行を始め、最高速度が270㎞/hに向上。この時点での所要時間は2時間32分で、開業時に比べ実に1時間以上の短縮を実現していました。
しかし、山陽新幹線では、空港の立地条件などから航空機との競争が激しく、さらなるスピードアップが計画されることとなりました。1992年には、最高速度350㎞/hでの運転を目指して試作車両WIN350が製造されて量産車のためのデータ収集を行い、この年の8月には当時の国内最高となる350.4㎞/hを記録しました。
このデータをもとに、量産先行車として1996年に500系第一編成が製造され、1年にわたる長期試験の結果、300㎞/hの運転に問題がないことが確認されたため、1997年3月改正で量産車とともに山陽新幹線で『のぞみ』として運行を開始。最高速度が300㎞/hとなったため新大阪―博多の所要時間は2時間17分に短縮されました。
さらに同年11月には、東海道新幹線でも営業運転を開始。東京―博多の所要時間は4時間49分となり、初めて5時間を切りました。ただし、東海道新幹線区間では、線路形状やパターンダイヤなどの関係で最高速度は300系と同じ270㎞/hとなり、所要時間短縮は行われませんでした。
500系は1998年12月までに量産先行車を含めて9編成144両が製造され、1999年改正では東京―博多7往復と、新大阪―博多の1往復で運用されるようになり、東京―博多直通の『のぞみ』のうち約半数が500系となりました。しかし、製造コストの高さと後に述べる問題から製造は9編成で打ち切りとなり、その後は汎用性に優れた700系の製造へと移行しました。
JR西日本とJR東海で思惑一致せず 山陽新幹線『こだま』へ転用 残る2編成はどうなる?
最高速度300㎞/hを達成した500系でしたが、特に東海道新幹線乗り入れに当たって大きな問題が発生することとなりました。
先端の流線形部分の長さのため、先頭車両の座席配置がその後量産された700系と異なり、共通運用ができませんでした。
航空機との競争が激しく、運用に多少の難があっても話題性を重視したいJR西日本に対し、すでに圧倒的なシェアを誇り、話題性より汎用性を重視したいJR東海との思惑が一致しないことも大きな問題となりました。ダイヤ乱れ時などでも共通車両で素早く対応したいJR東海にとって、座席配置が違う500系は、車両運用が限定される迷惑な存在となってしまいました。
また、2003年改正以降は『のぞみ』にも1~3号車に自由席が設定されましたが、この際乗降扉が1か所しかない1号車はしばしば遅延の原因にもなっていました。なお、この改正以降は停車駅も増加し、2003年改正では新大阪―博多の最速は2時間19分となり、さらに2007年改正では東京―博多を4時間台で結ぶ『のぞみ』がいったん消滅しています。
さらに2007年後半からは、最高速度300㎞/hのN700系が増備されたことにより、『のぞみ』運用からは徐々に撤退、2008年からは8両編成に短縮の上『こだま』運用に充当されることとなりました。500系16両編成での運用は、2010年2月28日をもって終了しました。
8両編成化は量産先行車を除いて実施され、V2~V9編成の8編成体制となりました。その際、余剰となった車両はすべて廃車となっています。また、電動車の構成が変わったことにより、300㎞/h運転は不可能な状態で、最高速度は285㎞/hとなっています。
このうち、V5、V6編成は2022年に編成ごと廃車となっており、2024年2月現在は6編成が残存しています。一部では、今回の置き換えでなお残存する2編成については、2027年以降も引き続き運行されることが報じられていますが、JR西日本によれば「そう遠くない将来」に置き換え対象となる見込みだとしています。