キハ40 第三セクター鉄道2社が導入 小湊鉄道と北条鉄道
2020年3月改正で只見線での運用を終了したキハ40の2両が、千葉県の小湊鉄道で2021年4月より運行を開始しました。このうち1両は只見線時代の塗装のまま運行されています。
また、兵庫県の北条鉄道は、交換設備新設に伴う増発分として、JR東日本秋田車両センターで余剰となったキハ40の1両を購入したことを発表しました。購入費用は輸送費を含めて2900万円(車体本体は250万円)で、2021年末にも北条鉄道へ搬入され、2022年春の運行開始を目指すということです。
車両を含めて路線ごと経営移管された路線はともかく、JRで廃車となった車両を第三セクター鉄道など中小鉄道会社が購入したり譲り受けたりする例は以前からあり、キハ40に限っても福島県の会津鉄道や山口県の錦川鉄道などが存在しています。最近では新潟県の越後トキめき鉄道がJR西日本から455系と413系4両を購入したことが大きく話題となりました。
キハ40は少しずつ数を減らしているとはいえ、まだまだ総製造数の半数程度が在籍しており、まだまだ現役車両としてカテゴライズされる車両で、かつてはローカル線ならどこにでもいた存在ですが、登場から40年以上が経過し、廃車後第二の人生を送る例も散見されるようになり、遠くミャンマー国鉄で使用されている車両もあります。
また、相次いで先の第三セクター鉄道2社が導入を決めたことで、にわかに注目を浴びるようになってきました。
キハ40とは? 国鉄が製造した久しぶりの近郊型ディーゼルカー
キハ40は、1977年から製造された近郊用のディーゼルカーです。
国鉄では、1953年に初の量産タイプの近郊型ディーゼルカーとしてキハ10系列の製造を開始しました。キハ10系は、液体式変速機の実用化で複数車両の制御が容易となり、原則として各車両に運転台が設置されきめ細かな編成の変更ができるなど、その後の国鉄ディーゼルカーの基礎となりました。
しかし、車体重量とエンジン出力の関係から、車体は客車や電車と比べて一回り小さく、簡素な装備で乗り心地もあまりいいものではありませんでした。そこで1962年からは、軽量化の上車体を大型化したキハ20系が製造されるようになります。
国鉄近郊型ディーゼルカーは、このキハ20系で一応の充足を見たこと、その後は準急用キハ55系や急行用キハ58系が余剰となったことなどで、1966年にキハ45系が少数製造された以外は長らく本格的には製造されませんでした。
1970年代半ばになると、地方でも道路整備が進んで自動車やバスが台頭してくるようになり、国鉄のローカル線の改善が急務となりました。ちょうどこのころキハ10系や初期のキハ20系の老朽化が進んできたことから、国鉄では新たな近郊型を開発することとなり、こうして登場したのがキハ40系でした。
キハ40系は、使用される線区に合わせて、車体両端に片開き扉を備えた両運転台構造のキハ40、その片運転台構造のキハ48、そしてやや中央寄りに両開き扉を備えた片運転台のキハ47の3形式が製造されました。
キハ10系で見られたように、ディーゼルカーの弱点であった車体の小ささを完全に克服し、当時量産が続いていた113系電車に近い大型の車体で、ボックスシートのシートピッチは1,470㎜と、急行型のキハ58系と同等となりました。車内化粧板も明るめの色が採用され、居住性が大きく改善されました。また、当時は国鉄の労使問題が極度に悪かったため、現場の労働者の意見を取り入れて機械の操作性や労働環境も大きく改善されています。また、これまでのように投入する地域で装備により形式を分けるのではなく、同形式で番台区分とされたのも特徴です。
居住性を大幅改善するも出力不足が目立ったキハ40系
しかし、エンジン出力は在来車に比べてわずかに改善された程度で、各種の改善で必然的に車体重量が増加したため、キハ40系を投入しても速度の向上はほとんど見込めないこととなりました。置き換え対象のキハ10系やキハ20系と比べても、平坦線で1エンジンのキハ17やキハ20の代わりは何とか務まるものの、2エンジン車のキハ52との比較や勾配線区では全く話にならない状態で、所要時間の短縮もほとんど見込めずむしろダイヤの支障になると評される始末でした。
さらに、当時標準となりつつあった冷房装置についても、車体重量とエンジン出力の関係から冷房にパワーを割く余裕もなく、さらに地方路線のローカル列車に冷房は時期尚早とされたことにより準備工事すら行われず、これには利用者からだけでなく国鉄担当者からも落胆の声が聞かれました。
こうしてパワー不足と中途半端な接客設備を持つことになったキハ40系は、当時の国鉄内部でも失敗作との批判が出されることとなりました。しかし、すぐに対処できる根本的な解決方法もなく、1982年までに全国で888両が生産され、北海道から九州まで日本全国の非電化区間で活躍することとなり、キハ58系と並んで「非電化区間ならどこにでもいる存在」となりました。
キハ40系 JRには1両を除く887両が引き継ぎ 改造でバリエーションも豊富に
キハ40系は、1987年の国鉄分割民営化の際にはまだ車齢も5~10年程度と若かったことから、事故廃車の1両を除く887両が旅客6社へと引き継がれました。
民営化後は、それぞれ使用される線区の特徴に合わせて様々な改造や改良が施され、番台区分やバリエーションは実に豊富なものとなりました。
民営化後のキハ40系は、出力不足という欠点を補うためエンジンの取り換えが行われる例も多く、エンジン換装を行った車両は取り換え前のおおむね1.3~1.5倍の出力となっています。このため、よほどの急勾配路線でない限りは単行運転も行えるようになりました。
また、旅客サービスのため冷房化も積極的に行われ、すでに全車両が引退したJR東海を除くと、西日本地域では冷房化が完了しています。ただ、そもそも冷涼な気候ということで冷房化には消極的な地域もあり、JR北海道のキハ40には非冷房車が多数残されています。JR東日本においても、東北地方では近年の新型車両置き換えまで非冷房のまま活躍した車両も多くありました。
変わったところでは、車両数が多いことから余剰となった車両を活かして特急列車や観光列車として改造される例も多く、全国各地に様々な列車が登場しています。
近年は新型車両の投入により徐々に数を減らしつつあり、JR東海では2016年改正で全車両が引退、JR東日本でも2021年改正をもって定期運用を終了しました。この一方で西日本地域においてはまだまだ民営化時の半数以上が残っており、特にJR西日本では2019年現在254両以上と、JR西日本が保有する一般型ディーゼルカーの半数以上を占めています。延命工事も盛んにおこなわれており、しばらくは具体的な置き換え計画もない(JR西日本が新型気動車DEC700を導入 在来車との違いや投入線区は?も参照)いことから、当面の間の活躍が期待できそうです。
なぜ第三セクター鉄道でキハ40の導入が相次ぐのか?
冒頭でも記載した通り、2021年4月からは千葉県の小湊鉄道で、2022年春からは兵庫県の北条鉄道で、JRで廃車となったキハ40が運行されます。なぜ、キハ40の導入が相次ぐのでしょうか。それには以下のような理由が考えられます。
- 単行運転が可能で、ローカル線での運行に適している
- 運転席と乗降口が近く、ワンマン運転がしやすい
- 大半の車両で機関が換装済で、出力問題も解決している
- 国鉄時代の設計・製造で頑丈に作られており、経年車でも十分使用に耐える
キハ40系は今後少しずつ新型車両への置き換えが進むものと見られますが、まだまだ両数的にも多くが残されており、他の第三セクター鉄道でも走る姿が見られるようになるかもしれません。