何が問題なの? 九州新幹線(長崎ルート)のゆくえ 佐賀県が反対する理由

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九州新幹線 未着工区間はフル規格で―国土交通省

九州新幹線(西九州ルート)、いわゆる長崎ルートのうち、未着工である新鳥栖ー武雄温泉について、国土交通省はフル規格新幹線として整備する方針であることを発表しました。

武雄温泉-長崎間は2022年の開業に向けてフル規格新幹線として工事が進んでいますが、問題の新鳥栖ー武雄温泉間については、佐賀県の反対もあり未だに整備方針も決まらず、部分開業後も当面は武雄温泉駅での乗り換えが必要となる見込みです。

しかし、佐賀県は依然として新幹線自体に本体の立場をとっており、長崎新幹線の建設を巡ってはまだまだ紆余曲折が予想されます。

ちなみにフル規格新幹線とは、本文後半で説明します。

長崎新幹線の建設経緯 国鉄分割民営化で建設費はだれが負担する?

この長崎ルートの構想は1973年にまで遡ります。新幹線建設の基本として定められた全国新幹線整備法に基づき、優先的に整備すべきとされた三線五区間(いわゆる整備新幹線)のひとつが、この長崎ルートでした。当時はまだ国鉄という組織があり、新幹線のルート選定や建設も国策で決めることができました。建設費をだれが負担するかという問題や、開業後在来線をだれが運営するのかという並行在来線問題も、すべて国鉄が負担する訳ですから、まったく話にもならなかったのです。

しかし国鉄は巨額の赤字を抱え、とても新幹線の建設どころではありませんでした。新幹線より高速道路の建設が優先され、いつしか整備新幹線は優先順位も下がり、大きく話が進むことはありませんでした。

そして1987年に国鉄が分割民営化されると、状況は変わります。

財政問題が取り沙汰されていた国鉄は解体されてなくなり、莫大な借金の大半はJRからは切り離され、ひとまず国民の目が届きにくいところへ隠されました。そして、当時はバブル景気に沸いていたこともあり、再び新幹線計画が注目されることとなります。

しかし、建設・運営主体として考えられていた国鉄はすでになく、建設費問題や、新幹線開業後の在来線の扱いに問題を抱えたままの再スタートとなりました。

整備新幹線の完成後、運営主体となるJRは民間企業ですから、国策といえど新幹線の建設を強要したり、新幹線の開業で赤字となる見込みの在来線の維持したりする義務はありません。そこで、建設費の大半を国、地方自治体が負担し、並行在来線はJRから経営分離することで、将来的に地域交通や分離された在来線がどうなるかには触れず、とにかく建設だけは進めようということになりました。事実、整備新幹線のほとんどは、この枠組みで建設されています。

長崎本線の主力列車885系『かもめ』 本数も多く、博多―佐賀は所要時間も40分程度で、新幹線ができたとしても費用対効果に乏しい
Wikipediaより

再び計画は動き出したものの、長崎ルートについては財政問題や在来線問題で長崎県、佐賀県の思惑も異なり、話はなかなかすすみませんでした。

特に佐賀県では、博多-佐賀間が現状約40分に対し、新幹線開業後は約25分、このために佐賀県内の整備費として総額1200億円の建設費をつぎ込み、さらに並行在来線をJRから経営分離して地元で負担となることが、費用対効果として適切ではないとし、そもそも新幹線の必要性自体を疑問視していました。

鹿児島本線から経営分離された肥薩おれんじ鉄道 もともと閑散路線な上、収益の高い特急列車がなくなり経営は厳しい 赤字分は結局自治体の負担となる
Wikipediaより

そこで、フル規格新幹線をあきらめ、スーパー特急方式で長崎県内の武雄温泉-長崎間を建設し、佐賀県内は在来線を活用する、という案が浮上しました。

フル規格新幹線とは、いわゆる新幹線のことで、新幹線専用に作られた路盤の上を、新幹線専用の車両が走るものを指します。一方、スーパー特急方式では、新幹線として構造物は建設するものの、当面は在来線車両での運行とするもので、最高速度は160km/h~200㎞/h程度となるものの、建設費は安上がりで、さらに在来線の活用や乗り入れもでき、将来線路を作り直せばフル規格化にも対応できます。

この案に沿えば、長崎県内は新たにスーパー特急方式で新幹線の路盤を建設しますが、佐賀県内は在来線を使用するため線路の改良費程度ですみ、さらに在来線も経営分離せずにすむ、ということになります。

佐賀県としては、在来線も守ることができ、建設費の負担もぐっと少なくなることから、1992年にJR、国、長崎県との間で、整備計画として合意を見たのでした。

フリーゲージトレインの失敗 話は振出しに戻る

三代目となるフリーケージトレイン 60億円の経費をかけて製造されたが、様々な問題があり結局実用化には至らなかった
Wikipediaより

こうして、長崎新幹線の建設に当たっては、佐賀県内は在来線を活用、長崎県内はスーパー特急方式で行う、ということで合意を見たのでした。

長崎県内で並行在来線となる肥前山口-諫早間は、上下分離式として20年間はJR九州が運営を行う、ということになりましたが、佐賀県内については、在来線をそのまま利用するので、並行在来線問題は存在しないことになります。

しかし、整備新幹線沿線の自治体からはフル規格での完成を望む声も強く、当初スーパー特急方式を予定していた北陸新幹線や九州新幹線(鹿児島ルート)も結局はフル規格で完成することになります。

となれば、長崎ルートもぜひフル規格で、ということになりますが、佐賀県内の並行在来線問題が未解決である以上、長崎県内だけフル規格新幹線を建設するというわけにはいきません。そこで登場したのが、車輪の幅を変え異なる幅の線路を直通できるフリーゲージトレインです。これなら佐賀県内だけ在来線でも、長崎県内のフル規格新幹線や、将来的には山陽新幹線を通って新大阪への直通も理論的に可能です。フル規格での整備にこぎつけたい長崎県や国の意向もあり、フリーゲージトレインはまだ試験段階ながらこれを利用する前提で、長崎県内の武雄温泉-長崎間はフル規格での建設に切り替わりました。

ところが、フリーゲージトレインの研究は暗礁に乗り上げ、実用化は極めて難しい状況になりました。どれもこれもやる前から分かっていたような理由ばかりで、本当に完成させる気があったのかわかりません。フリーゲージトレインが実用化されると、今後のフル規格新幹線の建設に黄信号がともる可能性も高いですから、そうなると困る人たちがいるのかもしれませんね。

ちなみに、線路幅1668mmを採用するスペインは、標準軌1435mmを採用する隣国フランスとの直通運転を行うため、フリーゲージトレインの大先輩で、その実用化は1968年、現在は最高時速250㎞/hのAVEでも問題なく使用されています。

このあたりは「西九州新幹線の未着工区間はどうなる フリーゲージトレインに再び脚光?」にも書いていますので、よろしければご一読ください。

佐賀県はなぜ新幹線に反対なのか? そもそも佐賀県はフル規格新幹線に合意していない

こうして国、長崎県、佐賀県それぞれが違う思惑を抱いたまま建設だけが進み、長崎県内だけがフル規格新幹線で、佐賀県内は未着工のまま在来線を使用するという、途中で乗り換えを挟む中途半端な計画となってしまいました。

そこで、佐賀県内もフル規格新幹線として建設し、並行在来線はJRから経営分離するということで話を進めようとしたのですが、そこへ佐賀県が「佐賀県は建設費は負担しない」「これまで新幹線整備を求めたことはないし、いまも求めていない」と主張しました。国からは、佐賀県の負担軽減のための戦術であるとか、ちゃぶ台のひっくり返しとか言う表現がなされていますが、これは全く筋の違う話です。

佐賀県は、在来線が今のまま残るという1992年の合意しか、もともとしていないのです。全区間フル規格で建設し、佐賀県・長崎県内の並行在来線がJRから経営分離されることは後から出てきた条件であり、条件が変わるなら今の合意はなかったことにするのが筋ではないか、というのが佐賀県の主張です。佐賀県としては、費用対効果の小さい新幹線より、今の県民の足を守ることを優先しようとしているのです。

新幹線は、確かに魅力的な交通手段であり、地方活性化には一見すると不可欠なものに見えるでしょう。

ですが、新幹線ができる度、地方の足である鉄道が切り捨てられ、日本の鉄路は分断されてきました。華やかな高速鉄道ももちろん必要ですが、鉄道には地域の足を支えるという大切な役割があると思うのです。

今まで、整備新幹線の建設に、正面から反対の意見はあまり聞かれませんでした。もちろん、建設資金が潤沢にあるならいくらでも建設すればいいでしょう。かつての国鉄のように、新幹線で儲けたお金で、赤字の地域の足を守る組織があるなら問題ありません。

しかし、大量に借金をし、何かを犠牲にしないと作れないような新幹線が、本当に必要なんでしょうか。

いよいよ北海道新幹線の札幌延伸も具体化してきました。本当に必要かどうかが議論される前に、新幹線ありきで動いているような気がしてなりません。

鉄道は大切な社会のインフラです。国土の隅々までネットワークされて、その力が最大限発揮されるものと思います。決して一地方の問題ではなく、国土の開発、維持は、すべての国民が真剣に考える問題だと思います。

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