なぜフルムーンパスは廃止? 鉄道旅行に魅力がなくなってしまったのか

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フルムーン夫婦グリーンパスが販売終了 40年の歴史に幕

JR各社から発売されていた「フルムーン夫婦グリーンパス」が、2022年9月現在で事実上廃止されたことがわかりました。

例年の利用期間は10月1日~翌6月30日(発売期間はその1か月前)で設定されていましたが、2022年は8月になっても商品の告知がなく、また時刻表2022年9月号に記載がなかったことから、「フルムーンパスがなくなった」と廃止が囁かれていました。こうした中で一部マスコミの取材に対し、JR各社が「お客様のニーズにそぐわなくなってきたことにや、年々発売が落ち込んできたこと」を理由として廃止したことを2022年8月31日付で発表。「フルムーン夫婦グリーンパス」は40年の歴史に幕を下ろすこととなりました。

フルムーン夫婦グリーンパスとは? 国鉄末期の利用促進策の一つ

「フルムーン夫婦グリーンパス(以下フルムーンパスとします)」は、国鉄末期の1981年(昭和56年)から発売された企画乗車券の一つです。この当時の国鉄は赤字問題が国民の厳しい目にさらされており、利用促進策の一つとして考案されました。商品名の「フルムーン」とは満月を意味し、「円満」「円熟」をかけ、「ハネムーン(新婚旅行)」のように中高年の需要喚起を狙った商品でした。

「フルムーンパス」は夫婦の年齢が足して88歳以上で同一行程をとることが条件で、新幹線を含む国鉄(後にJR)全線のグリーン車やB寝台車が乗り放題というものでした。後年は『のぞみ』など利用できない列車や、グリーン個室、B個室寝台など適用外の設備も設定されましたが、こうしたものの大半は「フルムーンパス」の発売以降に出現したもので、A寝台を除くと切符の登場当初はほぼ国鉄全線、全列車のグリーン車に有効という優れモノでした。

1982年CM 国鉄 フルムーン 高峰三枝子 上原謙
1982年、フルムーン夫婦グリーンパス発売時のCM 当時としてはかなりインパクトのある国鉄らしからぬCMで、注目を集めた

2021年シーズンの発売額は5日間用が84,330、7日間用が104,650円、12日間用が130,320円で、二人分の金額であることを考えると、相当にお得な乗車券で、TVのCMが効果を発揮したこともあって人気商品となり、国鉄末期のヒット商品の一つに数えられています。

フルムーンパス JRの言う廃止の原因は

このように人気商品だったフルムーン夫婦グリーンパスですが、なぜ廃止されたのでしょうか。

報道によれば、廃止の理由としてJRが上げているのがいつもの如く「お客様のニーズにそぐわなくなってきたことにや、年々発売が落ち込んできたこと」が挙げられています。

たしかに、発売当初と比べ時代が変化したことは事実です。夫婦の年齢が足して88歳ということは、単純に2で割れば44歳。40年前は熟年夫婦の年齢だったかもしれませんが、2022年現在は新婚ほやほやというケースも珍しくはなくなりました。

また、最近ではSNSで、利用資格として「男女の2人組」とされていることが、近年の性の多様化にそぐわないとして取り上げられたこともありました。

これらのことが、近年は時代のニーズに合わなくなってきたという理由で、それが原因で売り上げが落ち込んできたことにより廃止に至ったとされています。

この「ニーズの変化」がしたため「お客様の減少」は、JRがサービスを廃止したり列車を廃止したりするときに必ず聞く文言です。そして、とても不思議な文言です。

というのも、ニーズが変化するのは当たり前で、それに応じて商品も変化させなければ、売れなくなるのは当然です。年齢条件やカップルの定義が時代に即さなければ、改めればいいだけの話で、これはやる気さえあれば明日にでもできそうですが、そういう気はなさそうです。自分は動かず、この条件で買わないんだったらやめる(買いやすいように改める気はない)、直接そのものが売れるか売れないかだけで判断してしまう、まあ、いつも通りのパターンです。

日本中をくまなく結んだブルートレインをはじめとする夜行列車網も、大半が何のテコ入れもされることなく、ニーズに合わないという理由で、ニーズに合わせることなくほとんどなくなってしまった 「夜行列車」と聞いただけで旅情を掻き立てられる世代も少なくなってゆく  Wikipediaより

さらに、フルムーンパスは発売したからと言って何かしら特段の経費や手間が発生するのでしょうか? 切符さえ売れれば、あとはお客が勝手に乗ってくれるだけという、とてもおいしい商品なのではないでしょうか? これでは、みすみすお客を手放しているようなものです。

JR東日本によれば、2016年度までフルムーンパスの販売数は毎年約1万枚、売り上げにして毎年10億円だったということです。JR6社では、その倍の20億円くらいともいわれています。それを切り捨てるくらい余裕があるのであれば、昨今話題となっているローカル線の維持費くらい問題ないと思うのですが…。

では、条件をニーズに一致させるととフルムーンパスは売れるのか?

では、年齢条件や性別条件を外したら、フルムーンパスは売れるのでしょうか?

多分現状では売れないでしょう。それは、鉄道旅行自体の魅力が下がっているからにほかなりません。

フルムーンパスが発売された40年前ならいざ知らず、今や数万円で海外旅行に行けてしまう時代です。新幹線の速達性も、航空便の発達や値下がりで優位でない状況も増えてきました。グリーン車はかつては快適だったのかもしれませんが、安価ではるかにサービスのよい高速バスは全国津々浦々を結んでいて、高速道路の延伸でマイカー旅行だってそれなりに快適になりました。

JRとしては、願わくば「フルムーンパスは値引き率も高いし、これがなくなったら高い運賃払って新幹線乗ってくれるだろう」という願望が潜んでいるんでしょうが、そんなうまくいくはずありません。

フルムーンパス廃止で最も深刻なこと 鉄道旅行に魅力がない

かつての鉄道旅行は、ほんの数十年前だけを見てもとても魅力的でした。地方へもくまなく路線が伸び、見慣れぬ長距離列車がいつものホームに現れ、遠く遠くへ連れて行ってくれる。自分が乗るわけでもないのに、寝台特急が入線した時などは、多くの少年がまだ見ぬはるか遠くの目的地に思いを馳せたものでした。

かつての長距離列車には、仲康・夜行を問わず食堂車が不可欠だった ファストフードやコンビニの普及で以前のような賑わいは求むべくもないが、鉄道は移動しながらでも食事ができる数少ない乗り物で、食堂車は鉄道の魅力の一つだった Wikipediaより

しかし、今の鉄道にこうした魅力は感じません。相次ぐサービスの縮小で鉄道は単なる移動手段と化してしまい、旅行や移動の多様化で通勤・通学以外に好んで使われることも少なくなってしまいました。こうした世代がシニア世代になったところで、鉄道を旅行手段や目的に選ぶことはケースとしては少ないでしょう。

フルムーンパスの売れ行きが悪くなったのは、ニーズの変化という単純なものではありません。鉄道がニーズに合わせる努力をしなくなり、鉄道自体の魅力が下がってきているというものではないでしょうか。

現在、JR各社では2~3泊で数百万円もする鉄道旅行商品が盛んに販売されており、大いに人気を集めています。しかし、JRにはなぜこうした商品が人気を集めるのか、今一度考えてほしいものです。

かつての鉄道旅行は、今ほど快適ではなく、冷房なしで固い椅子に長時間揺られることも多かったであろう 冷暖房、リクライニングシート、食堂、寝台、こうしたものが設置された優等列車とは歴然の差があり、高価な鉄道旅行はあこがれだったに違いない Wikipediaより

かつての若者は、鉄道で安くそして長い時間をかけて旅行することが一般的でした。固い普通列車の座席に揺られながら、時折追い抜いていく特急列車には、さぞ魅力があったことでしょう。いつかはグリーン車の座席に身を沈め、食堂車で食事をし、寝台車でぐっすり眠りながら移動する…、こんな夢を若者が抱いていたからこそ、今のクルーズトレインブームにつながっていると思います。ということは、数十年後にクルーズトレインは多くの人の魅力を引き付ける商品になるのでしょうか? 

フルムーンパスの不人気と廃止は、これからのJRの行く末を暗示していると考えざるを得ませんが、皆さんはどう思われるでしょうか。

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